怒りを瞳の奥に静めたような表情の人たちに囲まれて、かれこれ五分は経った。
今日の試合でも負傷者を出した我が校のキャプテン兼監督のあのクソ眉真くんは、とっくに帰路についている頃だろう。なんで私がこんな目に。
私はただのマネージャーです、確かに彼らのプレーを黙認してるところ同罪なのは百も承知だけども、そもそも私はマネをやりたくてやってるんじゃないのだ。
あの!クソ!眉!が!!
「バスケ部のマネージャー以外認めねぇ」とか言いながらフハフハ笑いやがるんだ!!
首を横に振れば制裁という名のチョップ(くそ痛ェ)が飛んでくるのをわかってたから、自分の保身のためにしてるだけなのだ。

・・・なんて、弁解することもできず。
身を小さくする私をどうか笑ってくれ。もう誰でもいいから笑ってくれ。
こんなでも一応か弱い女子と思われてこんなことになっているのだろう。普段部活内で女扱いされないからこういうのは怖いと同時に若干嬉しかったりする。
非常に危険な思考である。どれもこれも真くんのせいだ。


「俺らが言いてぇコト、わかってんだろ?」
「お前、あんな奴らと同じ部活で恥ずかしくないのかよ」
「いや・・・恥ずかしいどころか今すぐ辞めたいんですけど・・・」
「ああん!?」
「すみません!!!」


ああもうホントに情けない。
そりゃあ敵さんの言ってることが正しい。間違ってない。
真くん達は"いい子"さんじゃないし、やってることは本当に卑劣で最低だ。選手生命にも関わってくることだって、平気でやってのけるのだから。

でも、私は知っているのだ。知ってしまったのだ。
彼らといる楽しさと、心地よさを。ただ非常なだけじゃない、ユニークな彼らを。

目は見えないのに表情が豊かな原先輩とか、
いっつも寝てるけど実は結構面倒見のいい瀬戸先輩とか、
馬鹿だけどいつも私の話を聞いてくれるザキ先輩とか、
死んだ目をして真面目にギャグを言う古橋先輩とか、
・・・小さい頃から一緒に育ってきた、真くんとか、


「そっちがこれ以上ラフプレー続けるってんなら俺らにだって考えが、」
「うちの奴隷に何か用か?」


聞きなれた声に内心安心しながらも、聞き捨てならない言葉に眉を寄せる。奴隷って。奴隷って!!

私を囲んでいた人たちは一気に声がしたほうを振り返って、ギリギリと歯軋りした。
この人たちは今日、チームの要を失ったのだ。怒るのも無理はない。
それでも「かわいそうだな」程度ですませてしまう私も、幾分と悪い方向に調教されたものだ。さすが真くんと言うべきか、


「・・・花宮・・・てめぇ・・・!」
「俺たちはお前らのせいでっ・・・・!」
「オレらのせい?フハッ、」


独特な笑い方の後、反論を許さない言葉がツラツラと続くことを私は知っている。
ご愁傷様、と心の中で手を合わせて、真くんについてきた原先輩のもとまで駆け寄った。
「なに掴まってんの、馬鹿じゃん」「油断したんです」・・・まったく、私も本当に堕ちたものだ。


「要の選手?知ったこっちゃねぇよバァカ。オレらはなんもしてねーし、そっちが勝手に怪我して勝手にベンチに戻っただけだろうが。手ごたえなさすぎてがっかりだったぜ?」
「(そりゃねーよ真くん・・・)」
「てめっ・・・!!!」
「殴りたければ存分に殴れよ・・・その代わり、お前らはもう二度と公式の試合に出られなくなる」
「(悪魔だ・・・悪魔がここにいる・・・)」
「・・・っクソ!!覚えとけよ!!!」


何故敵さんが悪者みたいに尻尾を巻いて逃げなければならないのか、甚だ疑問である。
しかしこっちがラフプレーをしているという証拠なんてないし(真くんが残すわけないし)、訴えようにも訴えることができないのだ。
なんというクモの巣。


「助けてくれてアリガトウ真くん」
「ッハ、もっと可愛らしく言えねぇのかよ」
「助けられた気がしないというかなんというかいだぁっ!?いたい!」
「なんか言ったか?」
「言ってないです!!」
「コントやってねーで早く帰ろうぜ〜。もうオレ疲れた」
「私のほうが疲れてますよ・・・精神的に」


はぁ、と重いため息を吐く。
瞬間、かなりの力で手首を引っ張られて足がもつれそうになった。
ちょ、おい真くん危ないでしょうが!!


「言いたい奴らには言わせとけ。オレたちは結果で黙らせる」
「・・・・はあ」


もう少しマシなプレーをするようになってから、その言葉を言ってほしいものだ。


甘やかしごっこ
甘やかすのは得意分野なもので



お題:確かに恋だった
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