「合宿ですか」
「ああ。毎年恒例の夏合宿!五十メートルの屋内プール借りて、近くの民宿取ってな。そこで、だ」


ごくりとつばを飲み込んだ楸は、まさかとでも言いたげな瞳でオレを見る。
まあ、そのまさかなのだ。今年からはお前というマネージャーが入ったのだから、これを使わない手はない。


「料理を・・・だな」
「選手何名か犠牲にしてもいいのなら・・・」
「馬鹿。んなわけにはいかんだろうが。あと三日あるからそれまでに普通の飯くらいは作れるようになっとけ。あ、部長命令な」
「・・・・・・鬼畜・・・!」
「はっはっは、なんとでも言え〜」


自分でも自覚するほどに強かなオレにそんな愚痴は通用せんさ。
「・・・わかりました」諦めたように項垂れた楸は、とぼとぼと歩いてビート版を取りに行った。入れ替わるようにやってきた松岡に、またかと肩を落とす。
大方、何を話してたのかとか聞かれるんだろう。合同練習で見た七瀬もそうだったが、こいつも大概楸のことを過剰なほどに大切にしている。本人たちに自覚はなさそうだが。

いつも以上に険しい表情でやってきたそいつに、はて、オレはいつも以上に楸と距離をつめて会話していたかといらんところに気を配ってしまった。


「部長」
「合宿の話をちょっとしてただけだ。お前が気にすることじゃない」
「いやそうじゃないっす」
「んあ?だったらなんだ?」
「あいつに料理作らせるととんでもねーことになります。ちゃんとした人に任せるのがいいと思うす」
「お、おお・・・」


最近じゃドリンクもまともに作れるようになってきたから三日もありゃ大丈夫と踏んでたが、松岡の表情を見るにそういうわけにもいかないらしい。
でもマネージャーだしなぁ。オレがいなくなっても、この夏合宿は毎年行われる。
将来的に考えても、慣れておいた方がいいだろう。いいはずだ。きっと。
・・・青い顔してる松岡見てると自信なくなってきた。


「いや、だったらお前が教えればいいじゃねぇか」
「、は?」


こいつ先輩に向かって「は?」とか言いやがったぞ。


「どうせお前はほっといても自主練とかするんだろうからな、一日くらい部活休んだって構わんから、あいつに料理教えて来い」
「なんでそうなるんですか・・・」
「部長命令、な」


そう言えば、ゆっくりと視線をめぐらせた松岡。その視線の先を追えば、やはりというかなんというか、まあ言わずとも分かるだろう。最近じゃ、こける頻度も二日に一回くらいになってきたな、あいつも。・・・それでもまだ多いほうか。


「・・・わかったっす」
「そんじゃーさっそく明日放課後みっちり教えてやれよー。・・・文字通り、手取り足取り腰取りな!」
「なっ!?」
「わっはっは!さぁタイム計るぞ〜!」


別にそんなんじゃ・・・!とか言っている松岡の言葉はスルーさせていただくとして、・・・
明日の練習だけで楸が料理できるようになってなかったら、オレ達どうすりゃいいんだろ。

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