何故こんな夜中に屋内プールまで借り出されるのか、甚だ疑問である。
よっす御子柴清十郎だ。鮫柄水泳部の部長をやってる。御子柴部長とかって呼んでくれていいんだぜ。
水泳の強豪校といわれるこの学校で、日々タイムを伸ばすため奮闘中だ。
今年もやる気に満ち溢れた一年と、変な方向にやる気を持っていっちまってる奴も編入してきて、水泳部の行く先が非常に楽しみだぜ。ちなみに今年はマネージャーも入ってきてくれた。
とはいえ、マネージャーと言えるにはまだまだのヒヨっ子だが。

肩のラインで綺麗に切りそろえられたセミロングの髪の毛をひとつに束ねたそいつは、忙しなく走り回っている。
おいおい、風呂も入ったんだろうにまた汗かいてどーすんだ。さすがのオレもため息が出るぜ?
なあ、


「楸」
「はい?あ、ちょっとは早くなりました?」
「いや全然だが・・・オレ寝そう」
「寝ないでください怖いですから」
「わはは、すげー上から目線で間抜けなこと言うなぁ」
「それを笑い飛ばせるの部長くらいだと思います」


仕方ない、もうちょっとだけ付き合ってやることにしよう。

何をしてるかって、そりゃあマネージャーの仕事をこなす練習である。
楸はそれはもう舌を巻くほどの不器用さだ。つい最近もまっずいスポドリを作って松岡を怒らせていたような気がする。似鳥が青い顔をして「止められるのは部長だけです」とかなんとか言っていたが、アレはアレで面白いしこの鮫柄水泳部で滅多と見られない癒しの風景だ。・・・少なくともオレにとっては癒しの風景だ。

今はビート版を各コースに配る練習。
そんなことまで練習すんのか、と少し呆れてしまったのは秘密だ。絶対に秘密だ。
楸を怒らせると面倒・・・怖いのだ。
それに、その練習もあながち間違いではない。プールサイドで滑ってこけるなんて、今ではもう慣れた光景だ。
そのたびに松岡の怒ったような焦ったような顔が、すんげー面白い。・・・というのも秘密だ。あいつは怒らせたら鮫になる。


「よい、しょ・・・!うわっ・・・!?」
「っ楸!」


ビート版を片付けようと器具庫に入る手前、お約束のように足を滑らした楸に思わずでかい声を出してしまった。駆け出して支えようにもここからじゃ間に合わない。
どんだけドジなんだ!


「いったた・・・!」
「おいおい、大丈夫か、」
「久遠!」


この声まさかとんでもない展開にならないだろうな。
振り返ってみると、入り口に立っているのは予想通り、松岡だった。
楸も驚いた顔で入り口を見ている。そしてオレを睨んできた。おいおい、勘違いしてくれるな、オレが呼んだんじゃないぞ。


「・・・なにしてんすか、こんな夜中に・・・」
「いやー楸のためのマネージャーれんゅ「なんにもしてないです!よね!?部長!」
「はぁ?こんな暗いとこで・・・ドジのくせに部長使って何してんだって聞いてんだ。なにもしてねーわけねぇだろ!」
「しててもしてなくても松岡先輩には関係ないもん」
「・・・・ちっ」


それにしても、松岡には楸センサーでもついてんのか?
不機嫌そうに立っていた松岡は大股で近づいてきて、固まっていた楸の腕を引き立ち上がらせた。なんだこれ。オレどうすればいいの?
まさに(笑)って感じなんだが。


「迷惑かけました」
「いや別に迷惑とかでは、」
「迷惑かけました。こいつは俺が説教しとくっす」
「・・・お、おう」
「ちゃんと交渉して手伝ってもらってたし!ちょっと!離せー!」


どうでもいいけど、嫉妬がわかりすぎてだな・・・
てゆーか夜だしあんまり周りに迷惑かけんなよ?と、遠ざかっていく後姿に心の中だけで声をかけておく。

・・・・寝よ。

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