「久遠」


呼ばれて振り向けば、普段戦闘以外でわたしの前では使われない赤の瞳がふたつ。
どうしたのと小さく問えば、「・・・いや」言葉を濁すイタチに首をかしげて、話の続きをする。
任務での帰り道、こうやってのんびりと歩くときはいつも、イタチはわたしの半歩後ろを歩く。理由なんて簡単だ。
いつ、どこで、攻撃を仕掛けられたときでもわたしを守るため。背後からの攻撃に弱いわたしのため。
イタチはいつだって、わたしの安全のことを考えてばかりだ。
わたしだって一介の忍なのだから、背後に弱くても戦えるくらいの力は持っているつもりなんだけどなぁ。
でも、わたしはずっとイタチの優しさに甘えている。こうやってわたしの事を考えてくれているのは素直に嬉しいのだ。


「・・・で、その時にデイダラが」
「久遠」
「あ、ごめんわたしばっかり話してたね」
「・・・いや、そういう事ではない」
「? でも珍しいね、イタチがわたしの話をさえぎるなんて」


いつもは静かに、時々相槌を入れながら優しい顔(見えないからただの想像だけど)で聞いてくれているはずなのだ。
でも、今日はイタチがなにか話してくれるのかな。
嬉々として振り返れば、何故か悲しそうな瞳をしたイタチが立ち止まってわたしを見ていた。少し心臓が跳ねる。わたしは彼のこういう顔を見るのは苦手なのだ。
儚そうな、消えそうな、過去を語らないイタチの痛そうな表情。


「い、イタチ・・・?どうした、」
「オレが久遠の半歩後ろを歩く理由を知っているか」
「え?・・・わたしを守るため・・・だよね」
「それもある。それが理由の大半を占める。・・・が、もうひとつ、オレの中にある汚い感情をお前に悟られないためだ」
「汚い感情?」


悲しそうな顔(と言ってもほとんど無表情に近いけれど)のまま近づいてきたイタチは、袖に隠れた手を出してわたしの頬を撫でた。
滅多とない彼からのスキンシップに、場違いにも高鳴ってしまう心臓が恨めしい。


「・・・わかるか」
「な、なにが・・・」
「・・・・・オレはそこまで心が広い男ではない」
「な、んっ」


強引に重ねられた唇から割って入ってきた舌に、動揺する。
イタチはいつだって優しかった。わたしには特別、優しかった。こんな彼を見るのは初めてだ。言い知れない恐怖と・・・それ以上に、嬉しさがわきおこって、思わずイタチの背に手を回す。
一瞬肩を揺らして唇を離したイタチの瞳は、いつもどおり黒に戻っていた。


「は、・・・イタチ?」
「・・・久遠がオレの事を好いてくれているのは知っている。それに伴う行動や表情を見ているからな。・・・だが、・・・オレの前で他の男の話をする久遠が・・・、」


オレはあまり好きになれない。
醜い嫉妬心だ。


「・・・!!」
「目覚めたか」


気づけば、イタチの腕の中にいた。
辺りを見渡せば、今日泊まることにしたのであろう宿なのか、質素な飾りのある小さな部屋。
・・・幻術。あれは、イタチの本音・・・
見上げれば、漆黒の瞳が少し憂えるようにわたしを見ていた。


「・・・・・・こんなオレでも、」
「好き!愛してるよ」
「・・・!」


微笑んだ彼の唇が、わたしのそれに重なった。


夕暮れはまぼろしに会える時間
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