さっきから無表情にケータイの画面を見つめるハルに、苦笑がこぼれる。
きっと心の中ではまだかまだかと彼女からの返信を待っているに違いない。俺達とは別の高校に通うことになった、久遠からの連絡。
てっきり同じ高校に通うと思っていた俺とハルは、それはもう驚いた。ハルなんていつものクールな表情を崩して思わず久遠の肩に掴みかかったくらいだ。

水泳部の部員もそろって、怜もバタフライが泳げるようになった今日この頃。
毎日ケータイ画面をガン見するハルに最初は彼女かと疑っていた江ちゃんも幾分か慣れたのか、「遙先輩、早く練習始めますよー」だなんて言いながらそれを取り上げる始末。


「待て、まだ久遠からの連絡が来てない」
「どうしたのハルちゃん、今日はいつにも増して依存してるね!」
「してない」
「いやしてるでしょ・・・」


呆れた風な声で言ったのは俺だけど、ハルがこんなにケータイから離れないのはなにかしらの事があったのかもしれない。悪いことじゃなかったらいいけど・・・久遠、ドジだし・・・

ケータイが光った。同時に、俺のケータイも何かを受信して振動する。
もの凄いスピードでメールを開いたハルの手元を見て、思わず、声を上げてしまった。


「江ちゃん、今日は部活早めに終わってもいい!?」


同じようにハルの手元を覗いていた渚が、嬉々とした表情で江ちゃんに言った。
何事かと怜も部室に戻ってきた。悪いな、先輩なのにいつまでもケータイかまってて・・・


「何かあったんですか?って、ちょ、遙先輩!?」
「ハル!ちょっとくらい部活してから行こうよ。あ、久遠が今どこでしょうってハルの家の写真送りつけてきてるんだ」
「待ってハルちゃん、僕も行くー!」
「渚!?・・・ご、ごめん江ちゃん俺も・・・」
「だったら私も行きます!先輩達の幼馴染み見てみたいし!」
「みなさんが行くなら僕も・・・」


ハルの背中が遠くなる。
着替えている時間も惜しくて、いつものハルみたく水着の上に制服を着て部室を飛び出した。



「久遠!」
「あれ?誰?ってうわぁ!?」


猪のごとく久遠に突進したのは渚であり、ハルではない。
そんな渚を必死で引き剥がそうとしているのがハルだ。相変わらずの過保護というか、なんというか、久遠への愛が半端ないというか、水<久遠思考は変わらないなあ。
そして、渚も、普通ちゃん付けで呼ぶのに久遠のことは呼び捨てだ。なにか渚の中での線引きがあるのかもしれない。もちろん、いい意味で、だ。

やっと追いついた俺達を見ながら、久遠は困惑したような、嬉しそうな顔をした。


「離れろ渚」
「えー!せっかく久々に久遠に会えたのに!」
「え?ええ!渚だ!渚〜!!」
「わーい久遠〜!!」
「だから離れろ」


すごい画ですね・・・両隣で江ちゃんと怜が呟いた。
まあ、確かに年頃の男女がああも仲良く抱き合っているのは、そしてそれをはがそうとしている男子がいるというのも、普通ではないのかもしれない。

でも、これが俺達の"普通"なのだ。


「久遠、さんは・・・幼馴染みですよね?」
「そうだよ、小さい頃から一緒だ」
「じゃあなんで・・・」


電車を使わないと行けない高校に、入学したのか?怜の目はそう言いたそうだ。
俺は少し笑って「さぁね」と首を振る。連絡は一緒に居る頃よりも密にするようになったけど、久遠が抱えている思いは聞き出せないままだ。
聞こうとしてもうまくかわされるから、聞き出そうとも思わなくなった。

久遠が楽しく、充実した日を送れて、・・・たまにこんな風にこっちに顔を見せてくれたら、それでいい。なんてね。


「今からでも遅くない。岩鳶に編入しろ」
「できるわけないじゃん、馬鹿なの遙」
「いいと思うよそれ!入ろうよ久遠〜!」
「無茶言わないでよ」


そんな、俺よりも何倍も素直にしつこく久遠を誘うハルと渚。
やめろと制裁を入れるのは、もう少し後でもいいか。
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