「久遠?・・・と、サソリ」
「イタチ・・・なんだその間は」
指を切ったとキモいくらいの笑顔で嬉しそうに言うこいつを保健室に連れて行っている途中で、教室の外の飾り付けを担当しているらしいイタチと遭遇した。
なんつーバッドタイミングだ。そしてオレの扱いに若干腹が立つぜ。
案の定イタチの名を語尾にハートがつく勢いで叫んで駆け出した久遠に、ため息しか出てこない。あいつ、怪我してるってこと分かってんのか。
「イッタチィィィィ!」
「危ないから走るな・・・」
腰にタックルをかました久遠を危なげなく抱きとめ、イタチは小さく笑った。
そんなあいつの笑顔に周りに居た女の何人かが頬をバラ色に染めている。
そしてそんな女に気づいているのか、久遠は若干不機嫌そうに頬を膨らましてイタチを見上げた。不思議そうに抱きとめた体制のまま久遠を見下ろすイタチ。見つめ合ってんじゃねーよ刺すぞ。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないよ!イタチちょっと蜂に刺されておいでよ!」
「なんの話をしてるんだお前は・・・」
「イケメンすぎて周りの視線が痛いんだよぉう・・・!」
それはイタチがイケメンなのが悪ぃんじゃなくてお前の言動のせいだよ気付けよ。
制服のポケットに手を突っ込む。
コロっと表情を変え、イタチのクラスの出し物の話をし始めた久遠に苛立ちが募る。
このオレがわざわざ仕事を放り出してまで保健室に連れていってやってんのに、なんの話してんだこいつは。
それにイタチの制服に血がついてたらどうすんだ(別にオレは全くもってかまわないが)。
「久遠」
「はい?」
「お前目的忘れてんじゃねーよ」
「え?あ!そうだった!ごめんイタチ、あたし保健室行かなきゃ」
「は?保健室・・・?」
一瞬で久遠の体の隅々を見たイタチは、指先に溜まる血にすぐ気がついた。
そして、何を思ったのか、そいつの腕を掴み、
「こんなもの、舐めておけば治るだろう」
「え」
あろうことか、自身の口に咥えたのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・やりやがった、コイツ。
みるみるうちに頬を真っ赤に染めていく久遠。
涼しい顔のイタチ。こいつ狙ってやりやがったな・・・!
自分でも顔が険しくなっていくのが分かる。
頭を掴み引き寄せ、帰るぞと低い声で語りかけた。
「今なら死んでもいいかも・・・」
「ふっざけんな」
ふらふらとオレにされるがままに引っ張られて行く久遠を肩に担いで後ろを振り返る。
してやったりな笑みを浮かべているイタチに舌打ちし、オレは苛立ちに任せて足を動かしたのだった。