「いった・・・!」


私を押しのけて電車に乗車していった憎くてそして意外に広い背中を睨む。
当の本人、花宮はわざわざ私の方を振り返って小さく舌を出した。噛み切って死ねばいいのに。
発車のベルが鳴る。
早く乗れよバァカ、なんて言いながら強く私の腕を引っ張る彼のすることは本当に訳がわからなくて毎回頭の上には疑問符が浮かぶ。
引っ張ってくれるんなら最初から押しのけないでよ。


「お前がトロいからわざわざ最初に乗って引っ張りあげてやってんだろ」
「余計なお世話よ」


満員電車なのに、私の周りには人が居ない。
理由なんてとっくにわかってる。けど、私は花宮と同じで自分に素直になれないのだ。
周りから守るかのように私の顔のすぐ横に手をついている花宮は、電車が止まるたびに押されて少し苦しそうだ。
ちょっとした事故で体が密着してしまったり、顔が近づいたり、本当に心臓に悪い。

急ブレーキがかかった。
周りから小さな悲鳴が上がる。私は手すりに頭をぶつけそうになったところを、花宮の腕に支えられた。悔しい。


「ボケっとすんなグズ」
「・・・どうせグズだもん」


電車の扉が開く。すぐ近くに立っていた私たちは、下車する人の波に呑まれそうになった。
咄嗟に花宮の腕にしがみつく。花宮もそんな私の背中に反対の腕を回して、しっかりと抱きしめてくれていた。

カップルだ〜

舌足らずな声音が耳に入る。途端に恥ずかしくなって押しのけようとしたけど、「なにやってんだ馬鹿」低い声。腕の力を強めた花宮に敵うわけもなく、そのまま腕の中にいた。


「カップルじゃないもん」
「・・・・・・なりゃいいだろうが」
「花宮が彼氏とかいやだ」
「はっ、そうかよ」


かぷりと食べられた唇。


「オレはお前を彼女にしたいって思ってるけどなぁ?」


あくどい笑みで言われたら、もう何も反論できない。
私だってとっくに好きだったよ馬鹿野郎!



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