放課後、誰もいない教室に二人。
向かい合わせた机に、教材を広げているのはサソリと久遠である。同じクラスになり文化祭も終わり、一層このクラスが好きになったと笑顔で語る彼女に、サソリはなんとも言えない複雑な気持ちを抱えていたが、まあ所詮この三年間で学校というものとは縁がなくなる。
そうなれば孤児院に居た頃と同じように、久遠は元暁だけのものだ。あわよくば・・・


「馬鹿、違ぇよ」
「え、またですか!」


あの過保護な長門を説得し、二人で残っているのには訳がある。
次の数学の時間に行われる小テストの予習とでも言っておこうか。クラスごとに担当の先生も変わってくるため、イタチのクラスでは行われないらしい。
ずるい!と頬を膨らましていた彼女の頭をなで、自身に念を押すような視線を送ってきた邪魔者も居ない。もちろんイタチのことだ。

サソリは少し身を乗り出し、間違った解答を書いている久遠の手を持った。
びくりと手が震える。口角を上げ、サソリはそのまま解説を始めた。

久遠の頭の中は、今の状況でいっぱいいっぱいなのだろう。
きっと解説なんて頭に入ってないに違いない。それでいい。
間違えばまた、何度だって、教え込んでやる。


「ささささサソリさん!」
「あ?なんだよ」
「ち、ち、近い、んですけど・・・!」
「いつも抱きついてくるくせによく言うぜ」


いまさらだろ、と笑うサソリに、久遠は口ごもった。
違う、何かが違う。
今日の彼はなんだか、いつもと違う。

言葉には表すことのできない感覚を少しもどかしく思いながら、久遠はそれでもいいかと笑った。


「・・・あの時、」
「あの時?いつですか?」
「・・・・・・なんでもねぇ」
「ええ!気になるじゃないですかあ!!」


あの時、そう、自身が一回死んだ時。
誓ったのだ、もう彼女を泣かせたくないと。笑顔を見るためにまた会いに来ると。
そばに、居ると。


「だから違ぇって言ってんだろーがクソかお前」
「ひどい!けど好きです!もっと罵って!!」
「キモいんだよ」


言いながら、サソリは久遠の頭を引き寄せた。
シャーペンが落ちる音がする。肩に彼女の額を押し付け、サソリは髪の毛をなでた。

ずっと、こうしたかった。
ずっと、会いたかった。会えなかった十年間、ずっと、想っていた。


「さ、」
「黙ってろカス」


少しくらい、素直になってみてもいいだろう。


ぬるいしあわせもきらいじゃない
手に入らないうちは、まだこれで我慢してやる
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