いきなり空から降ってきた女は、どうやら変態らしい。
やけにキラキラした目で土下座しながら踏んでくださいと言われたときは、気持ち悪すぎて思わず警戒を解いてしまいそうになった。
新手の幻術か?
しかしそんなそぶりはなかった。
オレもデイダラも幻術にはかかっていないし、いやそもそも受身もとらずに空から降ってきたところからしてこいつはおかしい。


「やっべサソリさんなんでそんな目で射抜くんですか興奮しちゃいます」
「・・・旦那、こいつ変だ」
「変じゃねぇ、変態なんだドがつく」
「わぁぁ、ありがとうございます!」
「「・・・ハァ、」」


ただのドMか?
目尻に涙まで溜めて嬉しそうに笑う、真面目に吐きそうになってきたおえぇ。
この血塗られた忍の世界にはあまりにも似合わない、平和ボケした変態だ。笑えねぇ。


「いやぁまさかサソリさんとデイダラに会えるなんて思ってなかった死んでよかった!」
「は?死んでよかった?なに言ってんだお前、うん?」
「いえこっちの話でーす、えへへへへへ」
「・・・き、気持ち悪ぃな・・・」


にやにやと気色の悪い顔をしながら、そいつは近づいてきた。
反射的に一歩後ずさるオレとデイダラ。
そいつは不思議そうに首をかしげて、また笑った。
錯覚か、そいつが笑うと花が飛んで見える。


「逃げないでくださいよぉ!せっかく会えたのに!」
「・・・なぜお前はオレたちの名前を知ってる?」


一番初めから疑問に思っていたことを投げかければ、そいつは笑ったまま言った。


「知ってるに決まってるじゃないですか!主要キャラなのに!ぐへへ」
「主要キャラ・・・?」
「それもこっちの話でーす!あ、握手してくださいうへへへへ」
「い、嫌だ、お前気持ち悪ぃ、うん」
「・・・オレも願い下げだ」


ファンクラブかなんかか?
いや、オレ達犯罪者にファンクラブなんているはずがねぇ。
にしてもなんだ?こいつ、本当にオレ達のことを・・・


「あー、でもあたし、握手するなら本体がいいな」
「っ!?」
「出てきてくれませんかー、?ってうおっ!?」


ちっ・・・かわしやがったか。
どうやら反射神経はよさそうだ。完全にこの尾の動きを見切って避けやがった。

この姿が本体じゃないと知る者は少ない。
こいつは今のうちに殺しておかないと、後々やっかいなことになりそうだ。本能が告げる。


「デイダラ!先に行っとけ!」
「ほどほどにしとけよ旦那、うん!」
「安心しろ・・・オレは待たせるのは嫌いだ。すぐ片付ける」
「ええええええええなに殺すみたいな雰囲気になっちゃってんのうぉぉぉ!?」
「チッ、いちいち避けやがって・・・!」


あ、でもサソリさんに殺されるなら本望かも・・・
とうっとりしだしたそいつ、マジで吐きそう。
一瞬戸惑ったところを、一気に間合いをつめられた。

こいつ、かなりでき・・・!


「握手してください!サソリさん!」
「・・・、」


なんの疑いようもない、屈託のない笑顔。
こいつに目に嘘はない。間近で見つめられ、直後にそう感じた。

警戒を、解く。
ついでにヒルコから出ると、こいつはさも嬉しそうに目を輝かせた。

なんだこいつ、やっぱりただの変態か?


「サソリだ!本物のサソリだやっふーい!」
「大声出すんじゃねぇ、耳に響く・・・」
「やっべ超かっけぇ、あ、手汗が・・・!」


勝手に人の手を握っておきながら手汗だと!?
・・・ふざけてる、やっぱ殺そうか。


「えへへー」
「・・・」


毒針に手を伸ばした手を、止める。
こいつの笑顔を見ていると、殺す気も失せてきた。

代わりに湧いてくる、こいつへの興味。


「お前、名は?」
「えへへー、?はい?」
「名前はなんだと聞いてんだ」
「あ、久遠っていいます。よろしくお願いします!」
「なら久遠、行くぞ」
「行くってどこに、わぁっ!?」


ヒルコを巻物に戻し、久遠を担いで走り出す。
こいつぁ、いい暇つぶしができた。

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