追っかけ人生も、ここまで来るとただのストーカーだな・・・

ビールを飲んだためこみ上げてくるげっぷを我慢しながら、席を立つ。
お酒には強い方だ。少し赤くなる程度で、笑い上戸にも泣き上戸にもならない。
酔って踊ったり、異様に笑っていたりで騒がしい宴会の場を見渡す。視線を滑らせてすぐに目に留まるのは、青峰先輩だ。

先輩のことは、中学の頃から知っている。
バスケをする彼を見ているうちに、キラキラとした表情が好きになり、高校も先輩を追っかけて会社も追っかけて。ただの追っかけ人生を送ってきた。が、未だに先輩とは話したことがない。なにしてんだって、そんなことできるわけないさ。

そりゃあ一時期話しかけようと試みたことはある。けどその頃青峰先輩はこれでもかというほどにグレていた。わたしの目には病んでいたようにも見える。原因は知らない、けど、あんなに楽しそうにしていたバスケから離れていこうとしてたのはわかった。
・・・まあ、そんなこんなで完全に話しかけるタイミングも、告白するタイミングも失ってしまったわけだ。
ていうかなんでこんなに好きなんだろう。


「ちょっと、トイレ行ってくるね」


一応同僚に声をかけてみるも、笑い上戸になってしまってる彼女の耳にはきっと聞こえていないんだろう。


***


化粧を直してトイレから出る。


「・・・・・」


そしてまたトイレに戻った。
今の、見間違いだよね。いやもはや夢だよね。
壁の隙間からもう一度外を見てみる。見間違いでも夢でもなかった。


「何やってんのお前?」


低くてよく通る声が、わたしに向かって発せられた。
もとから黒い肌に赤みはさしていないから、彼もきっとお酒に強いほうなんだろう。
ていうかなぜ、先輩が、わたしに話しかけているのだろうか。


「出て来いよ」
「は、い・・・」


うわあなんだこれ顔が熱いぞ。彼を好きになって約・・・何年なんだろう?初めての会話がトイレの前だなんてそんなバナナ。


「あのさぁ・・・ずっと言おうと思ってたことがあんだけどよ」
「は、はい?」


しどろもどろになるわたしとは逆に、先輩はまるで今会話していることがはじめてではないかのように、流暢に話す。
真っ白になりそうな頭でなんとかついて行こうと、わたしは半分身を乗り出して耳を傾けた。


「運命だと思うんだ」
「・・・は?」
「いやだからよ、運命だよ運命。お前、運命って信じてねぇ?」


果たして彼は本当に酔っていないんだろうか。わたしが勝手にお酒に強いイメージを持ってただけで、本当は弱いのかもしれない。
乗り出していた上半身を引き、ついでに一歩後ずさる。

すると先輩は空いた距離をその長い足で一気に縮めてきた。近い。


「お前、中学ん時も試合会場に絶対居たよな。高校ん時も、大学ん時もだ。んで今では、同じ会社。運命って言わないでなんていえばいいのか馬鹿なオレにはわからねぇ」
「え・・・・・」


ごめんなさいそれ運命でもなんでもなくてわざとです。なんて言えない。
子どもみたいに目を輝かせてる彼に、罪悪感が募る。

大きな手がわたしの腕を掴んで、わたしの心臓は急激に速まる。
ちょ、息できないどうしよう。


「ずっと言えなかったけどよ・・・オレ、お前のこと」
「ずっと前から好きでした!!」


せめてわたしから言うから、勘弁してください。


うまく泳いでいる気でいたのです
こんなことが起こってもいいのですか神様ありがとうございます

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