「わたし、高尾くん苦手」
放課後、忘れ物を取りに教室に帰った時たまたま居合わせた楸サンは、オレの顔を見るなりそう吐き捨てるように言ったのだ。
何を言われているかコンマ一秒かかって理解した。別に驚きはしない。普段の態度からして、彼女がオレのことをあまり好いていないのはわかっていたからだ。
でも、悲しいかな、オレは彼女のことを恋愛的な意味で好きになってしまっているのだ。
「へぇ、まあ知ってたけど」
「きっと知られてると思ってた」
好きになった理由?
そんなものは無い。好きになるのに理由なんていらねーだろ?
・・・でも、まあ、強いて言うならミステリアスなところだ。
人と群れない。あまり笑わない。かと思えば、オレは見てしまったのだ。随分とベタな展開だけど、捨て猫に微笑みかける彼女を。・・・笑いたければ笑えばいい。
世間で言う、ギャップ萌え?そんな流行の言葉に一括りに入れられるのは癪だが、まあ、最近の言葉でいうならまさにそれだ。
さて、オレはたった今、好きな人に苦手宣言されたのだ。
日頃の態度でわかってはいたものの、いざ直接言われるとさすがに堪える。
告白する前に振られてやんの、かっこわりーなオレ。は、笑ぇねぇ。
「・・・一つ聞いてい?」
「? なに?」
「苦手って言うけどさ、それオレにわざわざ言うようなことかよ?」
ミステリアスというか、ただ単に空気の読めない子だよ、それ。
頭の中で呟く。楸サンがこんな子だっていうのは知ってた。知ってて、言った。だって悔しいだろ、オレだけ好きだなんて。
楸サンは首を傾げて(こんなときでも可愛いと思ってしまう自分が嫌だ)、だってと続けた。
「高尾くんはみんなの人気者で、わたしとは全然違うんだもの。たぶん、ただうらやましいだけなんだけど・・・劣等感っていうのかな」
「は、?」
「キラキラしてて、眩しいの。きっとわたしが君を好きになったって、一生届かないような存在。だから、苦手」
「ちょ、ちょっと待って楸さ、」
「勘違いしないでほしかっただけ。君は聡いから、わたしが君のことを苦手だと感じてることに気づいてると思ったけど、その背景にはこんな想いがあるんだよってことを知っておいてほしかった」
根暗なわたしの精一杯の弁解だと思って受け取ってくれる?
そう言って、彼女は小さく笑った。自嘲的な笑みだった。
掴んでいた鞄を降ろして、一歩一歩近づく。
なあ、これってオレ、期待してもいいってことだよな?
みにくくないよ
ほんとうのきもちは、かくれて見えなかっただけなのだ