《カラオケに行かないかい?》


征くんの言うことは絶対であり、よっぽどのことが無い限りあまり逆らうのはよろしくない。
昼間で爆睡してのんびりと過ごそうと思っていた明日の予定は一瞬にして崩れ去り、わたしはベッドから立ち上がってお出かけ用の服を用意することにしたのだった。


***


「かわいいっス久遠ちゃん!」
「とても似合ってます久遠さん」


満面の笑みのりょた君と、微笑みを浮かべた子テツに照れくさい気持ちを隠しながら笑い返す。かわいいだなんてそんなおほほ。
調子に乗ってくるりと回って見せれば、何してんだよぶっは、と本気で笑われた。青峰氏最低。わたしだって女の子なんだからね。


「予約はもうしてあるのか?」


シンプルな服でも珍太郎が着ると様になるなあ。
近くを歩く女の子達が、十人中十人振り返って二度見してしまうほどに整った顔立ちをした集団に、一人平凡な女子高生。これはこれで笑えるけどめちゃくちゃ心持ち厳しい。


「ああ、もちろんだ。大人数部屋だよ」
「カラオケのメニューもなかなかおいしいからオレ好き〜。久遠ちんこれ食う?」


降りかかる視線から守るように傍に寄ってくれたあっちんの手には、まいう棒がひとつ。
この子はたまに天然なのか鋭いのかよくわかんないや。


「ありがとうあっちん」



《お○りかじりむし〜〜〜》
「・・・なあ、誰が選曲したんだよこの曲」
「やべーあっちんかわいい激写」
「お前か久遠」


カラオケボックスにて。
これ歌ってみなよぷくく、的なノリであっちんにマイクを渡したら、結構真面目に歌ってくれた。うまいとも下手とも言えない歌声だけど、どこか可愛い。巨体なのに可愛い。


「次、・・・残酷な堕天使のテーゼ・・・誰ですか?」
「オレっスオレオレ!!みんな聞いててよオレの美声!」
「珍太郎、そこのメロンソーダとってー」
「これか」
「久遠、ポテトもあるよ」
「あ、ありがとう征くん」
「聞いて!!?」


りょた君の扱いが雑いのはいつものことだ。
涙ながらに歌い始めたりょた君に、青峰氏の合いの手が入る。ちなみに合いの手の入れ方がへたくそすぎてりょた君の美声もあまり良い風に聞こえない。残念。


「久遠ちん歌わないの?」
「えー・・・みんなの聞いてるだけで満足だし」
「そんなこと言わないで、歌ってみてください。お金がもったいないですよ」
「そうだよ久遠。君の歌声も聞いてみたいところだ」
「んー・・・じゃあ、まあ・・・」


十八番をお披露目してみた。
相変わらず下手糞な合いの手を入れてくれた青峰氏のおかげで、少しりょた君の惨めな気持ちが理解できた。

ごめんねの気持ちを込めて、りょた君のジュースを注いできてあげよう。


「一人で持つのは危険なのだよ」
「え、別に大丈夫なのに!・・・珍太郎やっさしーい」
「別に、ただ店のものを壊して弁償するはめになるか心配だっただけなのだよ!」


今日も珍太郎は通常運転だ。私はそんな珍太郎が好きだよ。

なんだかんだで、彼らといるのは退屈しない。

その日の夜、あっちん率の高いカメラのフォルダを眺めながら、一人笑う。
いくつになっても、こんな風に笑いあえたらいいのにな。なんて。


七色が生んだもの
きっと、色あせることはない

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