「あ、花火・・・」


手を繋いでショッピングセンターを徘徊していたある日の昼下がり。
それまで話していた話題とはなんの関連性もない、突飛な発言に首を傾げる。
久遠は少し微笑んで、その細い指を動かした。
指の向こうに目を運ぶ。ああ、もうそんな時期なんだ。


「花火って売り出すのこんなに早いんだね」
「そっスね」
「去年もしたよね、花火」
「何故か青峰っち来たけどね」
「・・・まだ根に持ってるの、ごめんってば」


そうだ、花火を見て思い出した。
去年の夏休み、オレの家にお泊りすることになった久遠がケータイをいじりながら急に笑い始めたときは一瞬ビビッた。
まあこの子ときたらオレと居るときに青峰っちとメールなんかしてるから神経疑うよね。
それでも嫌いになれないところ、惚れた弱みってやつなんだけど。


「何故か青峰っちが来て、何故か花火を片手に持ってたっスね」
「だって青峰君が大人数の方が良いって言うから・・・」
「オレはあの日聖なる夜を過ごそうとしてたのにー」
「・・・さいってい」
「冗談っスよ、怒んないで久遠」


恋人つなぎに繋ぎなおして、彼女の機嫌をとろうとアイス店に向かう。
久遠はアイスに目がないのだ。一年以上も彼氏やってるんだから、機嫌のとり方くらい心得ている。
バニラとチョコのミックスソフトクリーム。
お金を払ってできあがったそれを渡せば、目を輝かせて食いつく久遠。
思わず微笑んで頭を撫でれば、ほほほあふかいひないで(多分、子ども扱いしないでって言った)と頬を膨らます彼女は最高級にかわいいと思う。


「今年もお泊りしよ?」
「・・・聖なる夜とか言わないなら、いいけど」
「えーそれは保障できないっスね」
「じゃあ行かない」
「男ってそんな生き物っスよ」
「ドヤ顔しても無駄だから。ぜっっったい行かない!」
「嘘嘘、オレは別に久遠と居れたらそれでいいから。ただし今年は邪魔者なしっスよ?」


言いながら口の端についたクリームを指で拭き取る。
少し頬を染めた久遠は小さく頷いて、花火しようねと笑った。


ひと夏の怪物
楽しみだね

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