「七歳まで引き取り手が見つからなかった場合、もうこの院で暮らしていく制度になってるの」
そう言って手渡された黒光りしているそれ(ゴキブリではない断じてない)。
横で目を輝かせる久遠に、これはなんだと小さく問えば、ランドセルだ!と大きな声で言った。
らんどせる?
「せんせい!長門は小学校ににゅーがくするのっ?」
「そうよ。久遠ちゃんも来年まで引き取られなかったら、赤のランドセル買ってあげるわね」
「わーい!!」
「引き取られなかったら、の場合よ」
そう強調した先生の言葉も、今では無駄だったのだと思う。
***
「へっへーん。にあう?」
「ああ」
真新しいランドセルを背に、久遠はスカートの裾を持ってくるりと回って見せた。
"わたし、ずっと長門といっしょにいるから心配しなくていいよ"
ランドセルを受け取ったあの日、引き取られなかったらの部分を強調した先生の言葉に不安を抱いたオレに向かい自信満々にそう言った久遠は、言葉通り誰にも引き取られて行くことなくこうしてオレの傍に居る。
悲しむべきことなのだろうが、オレはこれでもいい。むしろこれでいい。
久遠がいない生活なんて考えられない。引き取られていったメンバーは想像するだけで苦痛な久遠のいない日々を今でも送っているのかと思うと、尊敬にあたいするのだろうか。
何故かオビトのドヤ顔を思い出して、即座に首を振った。
「あしたから長門と同じ学校ー!」
がばっと抱きついてきた久遠をランドセルごと抱きしめ返す。
「何かあったらすぐオレのところに来い」
「うん!あいたくなったらすぐに行くね!じゅぎょう中でも!」
「・・・それはやめろ」
「半分本気だったけどじょーだんだよ!」
久遠なら授業中であろうとオレのクラスまで来てしまいそうだ。
そして、きっと、オレも満更ではないのだろう。
想像して、笑ってしまったオレは今さらながらこいつに絆されてることを実感するのだ。