「またヒール?」


そう言って黄瀬は、あからさまに嫌そうな顔をした。
指を絡めあって繋いだ手に、少し力がこもる。黄瀬は自分の握力がいかなるものか、ちゃんと理解したほうがいい。骨が軋む音がするもん。


「そうだけど、なに」


言いながら、あたしは黄瀬がヒールを嫌がる理由をちゃんとわかってる。
まず第一に、あたしは女子の平均の身長を上回るくらいには背が高い。そんなあたしがヒールを履くとどうなるか。
男子の中でも背が高いほうである黄瀬と、あんまり変わらないくらいの背丈になる。
黄瀬はそれが嫌なのだ。彼氏という立場、男の子という立場・・・見下ろしてたいの!以前そう言って拗ねてしまった記憶だってある。


「なにじゃないっスよもう。ヒールは履かないでって何回言えば理解すんの」
「だってせっかく持ってるのに履かなかったらもったいないでしょ」
「そんなのオレがもっといい靴買ってあげるし。・・・ヒール以外の」


そして第二に、初めてのデートでのことだ。
互いに慣れてなかったあの頃、少しでも黄瀬に似合う服装をしようと意気込んでいたあたしは、大人っぽい服にヒールを履いて行った。
まあなんとベタなことに、足をくじいてしまう。
あの時の黄瀬の慌てようは、本当に面白かったと同時に少しでも少しでもと背伸びをしてた自分がなんだかおかしくなったのだ。
それがトラウマとなったのか、黄瀬はヒールを履くたびに嫌そうな、心配そうな顔をする。


「でもあたしヒール好きだしなあ」
「何言ってんの?そんな足震わせながら」
「・・・バレてた?」
「バレバレっス。なに考えてんの?久遠。まあ大体予想はつくけど」


呆れたようなため息をつきながら、「オレの嫌そうな顔、そんなに好き?」と顔を覗きこんできた黄瀬はそのままあたしの頬にキスをした。
そして離れた時、見えるのはいたずらっ子のような笑み。

違うよ黄瀬。
あたしが好きなのは、いやまあ君の嫌そうな顔も好きだけどさ、一番好きなのはさっきのそのいたずらっこい笑顔だよ。


「わかってるならいいじゃん」
「毎デートごとにヒール履いてきて・・・このくだり毎回させて・・・楽しいっスか?」
「うん。黄瀬はあたしに甘いよね」
「彼女に甘くなるのはどのカップルも一緒だと思うけど」
「うん、そうね」


でも黄瀬にはおしえてあげない。君の笑った顔が好き、なんて。


「でもいい加減慣れないんスかー、ヒール。何回履いても足震わせて歩きづらそうに・・・帰りに疲れた久遠おぶるのどれだけ大変か分かってる?」
「わっかんなーい」


そこはわかれよ、

呆れた風に、でも楽しそうに笑った黄瀬は、本当にあたしに甘いのである。


神様に自慢したいくらいのあなただから
ハイミルク味のチョコレートみたい

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