「映画ぁ?」


二枚の券を自慢げに揺らす青峰に、久遠は訝しげな顔をしてみせた。
前々から観たいと言っていた映画の前売り券を、手に入れたと言うのだ。怪訝な顔はしてみせても、内心では飛び跳ねるレベルで喜んでいる久遠である。だがそれを前面に出すのはなんとなく気が引けた。少し、悔しい。

おう、といたずらっ子のような笑みを浮かべる青峰に、久遠も同じような笑みを浮かべた。
バスケ部のオフというのは実に少ない。そんな彼の休日を奪ってしまってもいいのか、という考えは青峰だからか浮かばない。
それほどに青峰は遠慮もなにもいらない、言えば心を許した仲だった。


「明日の一時にお前んち行くわ」
「明日こそはおしゃれしておく」
「おー期待しねぇで待っとく」
「そこは期待しろし。とびっきり可愛いよ?オチんなよ?」
「オチるかばーか」


もうとっくにオチてるからこれ以上オチようがねぇんだよ、と内心思いながら、青峰はぐしゃぐしゃと久遠の髪の毛を乱す。
始終会話を聞いていた千夏は緑間を見上げ、そしてやれやれとでも言うように肩をすくめた。


「出遅れたね緑間くん」
「うるさいのだよ」


にいまりと笑った青峰を一睨みして、緑間は眼鏡のブリッジを押し上げた。


▲▽▲


どう?とスカートの裾を持ち上げた久遠。
青峰は口を引き結び、そっぽを向いた。そっけない反応に彼女はむくれ、軽く彼の腕を叩く。


「ちょっとくらい褒めてくれたってさあー」
「・・・まごにもいしょう・・・」
「それ褒めてないから」


可愛いなんて断じて言わない思ってすらないぞああ火照るオレの頬早く冷めやがれ。
どこどこと煩い心臓をよそに、久遠は既に別の話題に入っている。
映画を観るときは何も食べない派の久遠とは逆に大きなポップコーンを購入した青峰。

あっちんかよ、という彼女のつっこみはスルーしておく。オレと二人なのに紫原の名前なんか出すなよ、と内心気分は彼氏気取りだ。

しょうがないだろう、周りにいるのは春の雰囲気前回の恋人たちばかりである。


「はじまるよ、ちょっと、食べるのやめてようるさいから」
「オレは食べながら観る派なんだよ」
「もしゃもしゃうるさいっての!」
「お前が静かにしろよ」
「ぐっ・・・!」


むっかつくー、とぼそり呟いた久遠だが、スクリーン上に映し出された映像に目を奪われ徐々に大人しくなっていった。

ありきたりな、恋愛映画だ。
パターン化してしまっているストーリーでも毎回人気を呼ぶのは、思春期の子ならでは。甘く切ない物語が大好物なのだ。


(そこらへん、ほんっと普通っつーかなんつうか)


いつの間にか自覚していた久遠に対する恋心。
運動も勉強も顔もスタイルもなにもかも平凡だ、と笑いながら言っていた彼女を思い出す。まさにその通りで、フォローのしようもなかったしする気もなかったが、思い返すと本当に平凡だ。

オレ、なんでこいつのこと好きなんだっけ。

考える必要もないのかもしれないが、ふとした瞬間に考えてしまう。
映画の内容なんて頭に入ってこない。チケットだって、別に久遠と居れるなら遊園地でもゲームセンターでもどこでも良かった。
ただ、僅かな休日を、自分にとって有意義なものにするための口実だ。

どうしようもないくらいに、好きだ。


《・・・すき》


びくりと肩を震わせて、スクリーンに目を戻す。
泣きながら告白をした少女を少年が抱きしめて、顔を近づけた。結末は見えている。

そっと横に座る久遠を盗み見る。
半開きの口、羨むような目、少し赤い頬。


「・・・・すき、だ


ああ、きっと今の自分はなんとも情けない顔をしているのだろう。

無意味に久遠の髪の毛をいつものように弄べば、なにすんの!と小声で叱られた。
なんでもねぇよ、ただ、

ただ、愛しい気持ちが抑えらんねぇだけだ。

ポップコーンを口に運びながら、青峰は再度スクリーンに目を戻した。
仲睦まじげに歩いていく少年少女の後ろ姿。
いつか、あんな風になれたら。


ふたつの目が青をうつすとき
そんな未来だったら、きっと溢れんばかりの幸せな毎日だろう

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