「おぉい、起きんかぁあ!!」


大きな声が耳を揺さぶる。
うるせぇなと小さく愚痴をこぼしながら、枕元に置いてある時計を手繰り寄せた。
午前五時。あのクソジジイ、起こすの早すぎんだよ、うん。

あくびをこぼしながら時計と一緒に置いてあった上着を羽織る。まだ眠い頭を起こすために冷水で顔を洗い、古ぼけた無駄に長い廊下を歩いて居間に行けば、見慣れた和食が目に入る。
おはよう、と優しい笑みを浮かべるババア。それに軽く返しながら、座布団に座る。


「デイちゃん、いただきます、するんやで」
「何度も言われなくても分かってるよ、うん」


オイラが院からこのジジアババア夫妻に引き取られてから、十年の月日が流れた。
最初の頃は警戒心剥き出しでそれこそ懐くなんてできなかったオイラだが、十年という時を共に過ごすと、まあ、それなりに心を許せるようになった。
ここのジジババは、あいつらと同じくらいに温けぇ。

そして。


「おいデイダラ、今日もみっちりしこんでやっかなぁ」
「日が暮れるまですんのはゴメンだ・・・うん」
「んなこた言ってたら一流の花火職人にゃあなれん!!」
「あんたァいっつもそればっかりやねぇ。無理しなやぁ?デイちゃん」


ここら辺じゃジジイのことを事を知らねぇ奴は居ねぇくらいに有名な、花火職人らしい。
耳にタコが出来るくらいに言われ続けた言葉だ。言い返すことをしないあたり、オイラも満更でもない。前世からの趣味だった爆発物(ニュアンスは違うけど)だ、嫌いじゃない。ただ少し違うのは、人を殺めるために使ってた物が人を喜ばすためのものになった。

その事実すら、オイラは少し嬉しいと感じてしまう。
・・・そう考えれるようになったのも、まあ、言えばあの変態ヤロウのお陰なのだ。

元気にしてんのか、久遠・・・うん。


「あァ、それとあんた!今日は一本の依頼が入ってたんとちゃうのん〜?」


ババアの言葉に感傷に浸っていたオイラは我に返る。
ジジイのとこには一週間に一回のペースで依頼が入る。宴会の盛り上げに花火を作って打ち上げたいだとか、その他もろもろだ。
今回はどんな依頼なのだろうか、と若干期待を込めてババアの次の言葉を待った。


「湯隠れ組に、特大花火一つ」
「それ、めちゃくちゃ儲かるじゃねーか」


湯隠れ組。

ここら辺で最も有名なヤクザの集団だ。
ジジイが営むこの店は、どんな依頼でも簡単に引き受ける。たとえ組に使われようと、人を殺める道具にしないと約束する限り断ることはしねぇ。
そんなジジイのやり方も、嫌いじゃなかった。


「ほんじゃら、今回の依頼はデイダラに任せた」


意外なジジイの言葉に飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになる。


「は!?オイラが!?」
「そろそろお前も一人で食っていけるようにならにゃいかん」
「・・・まあ、たいしたことはねぇけど」
「頑張るんやでぇ、デイちゃん」


一通りの花火の作り方は身に付いている。

態度とは裏腹にらしくなく高鳴る胸に、オイラは秘かに笑みを浮かべた。


***


「・・・で、なんでこうなってんだよ、うん!!!」
「知るかってんだ!オレだって聞きてぇぞ、デイダラちゃんよぉ!!」


特大花火を仕上げて持っていった矢先に居たのは、懐かしさを感じるそいつの姿。
なんで院を出て一番最初に会うのがこいつなんだ、うん!
歯軋りして走るスピードを速める。


「とりあえず、物陰に隠れるぜぇ!」
「うわっ!引っ張んな!!」


後ろに迫る黒い集団を尻目に、オイラとそいつ――飛段は、急な角を曲がってそいつらを撒くことに成功した。

マジで、誰かこの状況説明してくれ・・・うん。

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