「眠いのか?」


ぽかぽかと照る太陽の光を窓越しに受け、船を漕いでいる久遠に問いかける。
久遠は一度ぱっと目を開け、そしてすぐにまたうとうとし始めた。これは、肯定の意。
はあ、と小さなため息をついた長門が、眠いのなら横になればいいだろうと彼女の頭を撫でる。それすらも気持ちよさげに頬を緩ませてしまうあたり、どことなく猫に似ているなと感じた。

長門十一歳、久遠十歳。
小学校五年生と四年生になった二人に訪れた春休み、こまめに課題を終わらせていく長門に対し久遠は面倒くさいと溜めがちである。
一緒に育っていても、やはり違ってくるものなのだ。
しっかり者の長門にいと、ぐうたら久遠ねえ。
院の孤児たちにはそう定着している。

只今午後二時。
孤児たちはお昼寝タイムに入っているが、この歳になればもうお昼寝タイムなんて必要ない。
黙々と鉛筆を握った手を動かしていた長門だが、目の前で眠たげに(ていうかもはや半分寝ている)頭を揺らす久遠を見、再度ため息を吐く。


「久遠、今日こそ宿題するんじゃなかったのか?」
「・・・んー・・・、」
「・・・こら」


ぐでんと両腕を伸ばし机に突っ伏した久遠のせいで、長門の教材までもが彼女の腕の下敷きになってしまう。
何度目かになるため息を吐き、そして優しげな笑みを浮かべた長門は久遠の背後に回ってその脇に両手を忍ばせる。


「、んー・・・だっこじゃなくて・・・おんぶがいいー・・・」


くたりと力なくよりかかってきた久遠。
長門はそんな彼女のわがままに微笑み、わかったわかったと前に回りこんで背中の後ろで両手を広げた。
ゆっくりとした動作で長門の背に乗り、全体重を預ける久遠だがよく食べる割にそれほど重くない。

普段のパワフルさに、すべてエネルギーを使っているのだろうか。
一人で考えた長門は、納得がいったような顔で肩に乗る久遠の頭に頬を寄せた。


「ねーむれ、ねーむれ、・・・」
「こども・・・あつか・・・しな、で・・・・・・」


途切れ途切れに紡がれる言葉に苦笑する。

十分子どもだろう、見た目も、中身も。

あの頃と比べると一回りも二回りも大きくなったが、それでもまだ小さい体を背負い直し、長門はゆっくりと歩みを進めた。
空を見上げる。
まばらにちらばる雲を見て離れ離れになったメンバー達を思った。

寂しくはあるが、それでも久遠と二人きりというのは悪くないな。
そんなずるいことを考える。


奪うための手段にしかすぎない
それでもやはり寂しさは拭えない、か。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -