取り囲んでくるけばけばしたまつげの女達が発するキツイ匂いに、軽く頭痛を覚えながらやっとのことで席についた。
さっきまでの時間が嘘のように、一気に地獄に来た感じがする。

久々に会った久遠や長門やサソリは相変わらずで、少し安心している自分が居ることは否めない。
サソリまでもがこの学校に、しかも彼女と同じクラスに居たのには驚きそして正直のところ羨ましかったりするのだが、まあそれは仕方のないことだろう。
これからはほぼ毎日会える。それに来年度はクラス替えもあるだろうし、そこに運をかけるほか無い。

それにしても、と、オレは手元にあるケータイを見つめた。
ついさっき交換した久遠達のアドレスに、緩んでしまいそうな頬を引き締める。その場で電話をかけてきた久遠は、なんというか、本当に相変わらずだ。イタチイタチとオレの名を連呼する彼女にそのつど返事をしていたのだが、いかんせんサソリという名の宿敵はそれに良い顔をしない。まあ、逆の立場ならあいつの気持ちもわからなくはない、が、久々の再会なのだ。少しくらいの我が儘、いいだろう。
思えば院を出るその手前まで、オレはいつになく、自分でも驚くほどに子どもっぽかった。


「じゃあ、ここ、うちは!」


そして何の運命か、オレの引き取り先の苗字は"うちは"。
驚きと少しの切なさを感じながら過ごしてきた十年間だ。過去の過ちを忘れずに生きろということなのだろうか。
過去と少し、いや決定的に違うのは、オレはもう一人ではないということ。


「・・・I swear that it is there with you」


ずっと海外に居たせいか、元から容量の悪くない頭で簡単に染み付いた英語。
少しざわつく周りを鬱陶しく思いながら、舌を巻く教師を見据えて席についた。

この場にあいつが居たら発狂どころか周りを顧みず抱きつき頬ずりしてきそうな勢いだな、と想像したらあまりにもしっくりきて、また緩みそうになった頬を引き締める。

ああ、早く授業が終わらないものか。
次の十分休憩が早くも待ち遠しい。
らしくないと思いながらも、オレの本来の姿はこうなのだと思い知らされる。


***


《わかるか、オレだ》


オビトの低い声が電話口の向こうから聞こえ、オレは少し驚きながら返事をした。
まるで、帰国を見計らったかのようなタイミングでの電話だ。

どこで入手したのか、教えていないはずのオレのケータイ番号なのだが、妙に納得がいく。
行く末、離れ離れになったメンバーを集めるのはきっとこの男だ。


『何のようだ』


棘のある言葉で返す。
オビトは喉の奥で笑い、お前はどこの高校に行くんだ?と問うた。
何を考えているのかわからない、電話口からの笑いを含んだ声。仮面はなくなってもこれでは前世となんら変わりないなと思いながら、編入する高校名を告げた。


《・・・イタチ、お前は運命というものを信じているか》
『熱でもあるのか、オビト』
《大真面目だ》


ここに久遠が居たら、オビトが運命とか言ってる!!ひい!!などと言いながら腹を抱えて笑いそうだ。


《長門のケータイの番号を教えてやる。久々に会う前に挨拶でもしておけ》
『、それは・・・どういう、』
《察しているのだろう?お前が行く高校は、まさに久遠が先日入学したばかりのそこだ。長門も通っている》
『・・・・・・運命、か。信じてみたくもなるな』
《ふ、そうだな》


そこで電話は一方的に切られた。
別れの挨拶もない、なんともオビトらしい切り方だった。

久々に帰って来た家は、院からさほど遠くない。
明日はあいつに内緒で、玄関先で待っていようか。
驚き、そして涙を溜めて飛びついてくるであろう久遠を想像する。


『っいだぢぃいい・・・!!』


涙声の久遠に、オレまで泣きそうになってしまったのは、一生秘密だ。

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