角都が居なくなって一週間が経った。
一人死のうが大きな怪我を負おうが何も思わなかった前世とは違い、重苦しい空気はしばらくの間続いていた。
それは何も、久遠だけのせいではない。
暁メンバー全員が発するオーラのようなものが、幾分か黒いのだ。だが一週間も沈むほど、彼らの精神は弱くない。

なにより、


「デイダラァァァアアアっ」
「だからおいかけんなっつってんだろうが!うん!!」


一番沈んでいた久遠がこれである。
変わらない運命を嘆くより、やはりこんな久遠を眺めているほうがいいなと、みな胸中は同じだろう。変態ではあるが。


「あのね、一日だけでいいの!一日だけ、このマスクしてすごしてくんないかなっ」
「うまのりになって言うセリフじゃねえぞ・・・うん」


つーかなんでだよと訝しげな顔をするデイダラに、久遠は堂々と言い放った。


「え?しみこんだデイダラの匂いをすんすんするの!!」
「はぜろ変態」


抵抗が出来ないデイダラの代わりに、近くに居たサソリがその体を蹴飛ばした。
それにも嬉しそうな顔をするあたり、変態の代表格と言っても過言ではないだろう。
だいじょうぶか?と久遠を抱き起こす長門。過保護である。小南はそんな様子を微笑ましげに見ていた。


「久遠」


未だに諦めきれないのかうろうろとさ迷う彼女を呼ぶ声がひとつ。
振り返れば、風呂上りのイタチが濡れた髪の毛をタオルで拭きながら部屋に入ってきていた。
上がったぞ、入れと促す。久遠はごくりと唾を飲み込んで、そろそろとイタチに近づいた。


「? なんだ」


首をかしげるイタチの細くて綺麗な漆黒の髪の毛から、雫がぽたりと落ちた。


「イタチ・・・いつ見てもほんとにいろっぽくてたべちゃいたい」
「・・・いいから入れ」


身の危険を知らせる信号が鳴った。
サソリが小さく舌打ちして、久遠の下着とパジャマをイタチに投げて寄越す。
イタチはそれを受け取り、走り出した。


「まってイタチやさしくするからああああ!ねえええ!」
「あいつはもっとまともなことしゃべれないのか」


イタチを追いかける久遠の後ろ姿を眺め、オビトが小さく呟いた。
いつもの光景である。


刧刧


サソリが投げて寄越した久遠の着替えを本人に押し付け、風呂場まで駆けてきたイタチはゆざめしないように気をつけろと言い残して脱衣所を出る。
いっしょに入んない?という彼女の問いは華麗にスルーである。慣れたものだ。

イタチはふと、角都のことを思い出した。
普段からそんなに喋るほうではない彼とは、久遠を通して喋ったことがある程度だ。
飛段と居るのはよく見かけたが、その他には久遠ぐらいしかまともに喋らなかったのではないのか。それなのに、寂しさというのは感じるものだなとイタチは小さく笑う。

まだ乾ききってない髪の毛を触り、イタチは新しいタオルを取り出して頭に被せた。
もし自分がここから居なくなる時、久遠は寂しがってくれるのだろうか。その問いはもちろんの事イエスに違いはないが。

もしかしたら泣いてしまうかもしれないな、と思う。
それが自分のことなのか、久遠のことなのか、分からない。


「久遠」


ドアの向こうで返事が聞こえた。


「もしお前の前からきえるようなことがあったなら、なにがあってもどんなことをしてでも、かならず」


会いに来るよ。

言い終わらないうちにドアが大きな音を立てて開いた。


「だからイタチってだいすきなんだよおおおお!!」


シャツとパンツという非情に許しがたい格好ではあったが、イタチは緩む頬をそのままにゆっくりと彼女の頭を撫でた。



思えばそれは予兆だったのかもしれない。
一週間後、イタチの姿は孤児院に無い。

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