ダンッ!

大きな音がする。ケータイをいじっていた佐藤千夏は若干驚き、そして誰だうるせぇなと眉根を寄せて音がするほうを見た。
目に映ったのは、うつむく久遠とたじろぐ青峰。そして、そんな二人を驚いたように見ている緑間だった。

修羅場か?と勘ぐってみるがどうやら怒っているのは久遠だ。
千夏は目と耳をこらして会話を盗み聞こうとする。だが周囲の雑音が多くて聞き取れない。舌打ちをかまし、面倒くさそうに重たい腰を起こして何が起きたのか知るべく足を運んだ。

千夏が目的地に到達する前に久遠は身を翻し、自分の席に戻ってしまう。
普段から滅多に怒らない彼女なだけに、本気で怒ったときは誰よりも面倒なのだ。これは経験上の話である。


「で、何をやらかしたの青峰君」
「オレがやらかしたの前提で聞いてくるなよ」


むすっとした顔で、青峰はだるそうに明後日の方向を見やった。
お前のせいだろう馬鹿め、と緑間が言っているのだから犯人は青峰だ。間違いない。変な奴だけど、緑間が嘘はをつかないことくらい浅い仲である千夏でもわかっている。
青峰と同じようにぶーくれている久遠を尻目に、千夏は机に手を置いた。


「青峰君?理由はどうあれ普段温和って言っちゃあ温和なあの子を怒らせたのよ?この意味わかる?めんどくさくなんないうちに謝っちゃいなよ」
「それお前がご機嫌取りすんのがめんどいだけだろ絶対ェ」
「ご名答」


千夏は誇らしげに胸を反り、さあ行きなさいとふて腐れる久遠を指差した。
緑間はもう何も口を挟んでこない。だがその視線はちらちらと久遠を捉えていた。そしてびんびんと伝わってくるのは早くしろとでも言いたげなオーラだ。

青峰は小さく舌打ちをしてゆっくりと彼女の机に赴く。

千夏は緑間の影に隠れ、しっかりとその様子を見守った。
青峰君ちゃんとやってよ、ほんと機嫌の悪いその子相手にすんのめんどいんだから、と到底友達とは思えないことを思いながら。


「・・・おう、」
「・・・なに。もー私怒ったからね。知らないからね。あっちってよ青峰氏のばあぁああか」
「そりゃおまっ・・・!あー、いや、悪かったって」


頭をかき、眉を下げる青峰を見上げた久遠は小さくため息をついた。

久遠が怒るなんてなにしたの、と緑間の服を引っ張った千夏。
緑間は服が伸びるからやめろと眉をしかめ、めんどくさそうに前を向き直る。


「女の子に向かってお前太った?とかほんとタブーだからね!?」
「だっから謝ってんじゃねぇか!」
「事実なだけに心にきたの心に!この気持ち青峰氏に分かる!?」
「わかんねぇに決まってんだろ!つーか別に太ったからって何が変わるわけでもあるまいし!」
「あぁん!?じゃあ別に太った?とか聞かなくてもいいでしょっ!そっとしといてよこのわからずや!」
「あ"ぁ!?んなの知るか!つーか気にすることじゃねぇだろ十分可愛いんだからっ!!」
「あ"あん!?あ、え?」
「あ?文句あっか?」


ぼっ、と火をふくように赤くなった久遠を、訝しげに覗きこむ青峰。
近寄るなあああっ!と平手打ちをかまされ、青峰はそのままケーオーされた。哀れ。

千夏は小さく呟いた。


「・・・しょーもな」


悪魔のしっぽをつかまえたなら
だけどそんな日常が、どうしようもなく好きだったりするよ

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