先輩先輩、とオレの名をその透き通ったような淡い声は、もう付き合って六ヶ月になる久遠のもんだ。
わざわざオレ達上級生の階まで足を運んできてくれたことに若干の嬉しさを感じ、だけどそれを表情に出すことはせずに振り返る。
ひゅう、とはやしたてる周りのやつらにヤキを入れることは忘れずに。

恥ずかしそうにその様子を眺めていた久遠に向き直る。
その頭を優しく撫でれば、久遠はくすぐったそうに身をよじった。やべ、可愛い。


「なんか用か?」
「あ、そうなんです!これ、」


ブレザーのポケットから何かを取り出す。
小さく折りたたまれたそれを両手で持って、こいつはまた恥ずかしそうに笑った。
だから、いちいち可愛いんだよクソが。


「・・・手紙?」
「はい!」
「なんでまた、」
「ああああ読まないでください!あたしがここから立ち去ってからにして!」
「はァ?」


疑問符ばかりが頭上に浮かぶ。
自身のスカートをいじったり髪の毛をいじったり、久遠の視線は忙しく泳ぐ。
眉間にしわがよるのを自覚しながら、オレは手紙を持ってないほうの手でこいつの頬を掴んだ。
アヒルのような口になった久遠は、驚いたのか目を見開いて、そして顔を真っ赤に染める。ここ、公衆の場。オレも理性抑えてんの。それ以上可愛いことしてみろ?キスすっぞ。
・・・とは、残念ながら言えねー。オレだって一応立場はわきまえる。

はにゃひてくらひゃい、と真っ赤な久遠は言う。


「まあ、ここでは読まねぇけど」
「いったあ・・・強く掴みすぎですよ先輩・・・」
「赤くなってるぞ」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「さあ」
「・・・もー」


違う意味でも真っ赤になった頬を、今度は優しく撫でてやった。


「・・・べつに、意味なんてないんです」
「これか?」
「はい。あの、普段から、なんていうか・・・気持ち、あんまり伝えれてないから・・・その・・・ほんとはこんなに好きなんですって、伝えたくて」
「・・・お前、今日うち来い」
「はい!?」


困惑顔の久遠の赤くなった頬に、唇を押し当てる。
パクパクと金魚のように口を動かして、今まで以上に、それこそリンゴのように真っ赤になったこいつに口角が上がるのを抑えられない。

さっきまで立場がどうとかほざいてたのはどこのどいつだ、オレだ。
でも人間には我慢の限界ってのがあるんだぜ。そしてオレは我慢するのが苦手なタイプだ。


「まあ半年もよく我慢したと思うぜオレは。よく耐えたオレ。今日くれェわがままになってもいいよなあ?」
「は、あの、せんぱい・・・?」


にいまりと、笑ってみせる。
体を硬直させて、心なしか青い顔をした久遠の肩を掴んで引き寄せた。


「放課後迎えに行く。約束・・・破ったらどうなるか・・・わかるよなァ?」
「はっ、はい・・・!」


涙目のお前も、誰より一番可愛いぜ。


駆け抜ける恋愛超特急
白い紙一杯に書かれた愛の言葉に、放課後が待ち遠しくなる。

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