瞳を閉じて思い浮かぶのは、久遠の笑顔。
開けた時に目に映るのは、見慣れた天井。この家に世話になり始めて、かれこれ十年になる。
なんの飾り気もない部屋の机の上に立てかけてあるのは、いつかメンバー全員で撮った写真。その中でも一際眩しい笑顔で写っているのは言わずもがな久遠で、毎朝ちらりと眺めては知らずうちに笑みをこぼす。そしてそれが少し悔しくなる。

電話越しの久遠と長門の声は、少し変わっていた。きっとオレも無自覚だが、転生時より幾分か低い声になっているのだろう。
離れている間に成長されていることがなんとももどかしく、そして、少し切なかった。

鶏の鳴く声が頭に響く。


「・・・そうか、もう高校生か」


どこか年寄りくさいセリフだ。牧場なんてやってなかったら、オレだって今高校生だったはずなのだ。だからと言って、この現状に文句などはないが。
自嘲しながら、作業着に着替える。

さて、オレにできないことはないといつかのオレはあいつにそう言ったが・・・
今のオレが握っているのは孤児院の連絡先と、あと・・・あいつの連絡先だけだ。あいつも、普通の日常生活を送っていれば、今は高校に通っているのだろう。
引き取られて行った先も、孤児院からそう遠くないはずだ。となると、あいつは、もしかしたら・・・
久遠や長門と同じ高校に通っていたりするのかもしれない。

持っていた道具を置き、オレは連絡を取るべく一回にある電話機のもとに足を運んだ。
一刻も早く、再会を。

大きな嘘ばかりをついてきた前世だ。
今世ではもう嘘はつかないと決めた。


「・・・わかるか、オレだ」


受話器の向こうで、低い声が返答を返した。

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