黄瀬涼太という人物は端正な顔立ちをした、スポーツ神経万能で、ユーモアのある、少し頭が悪い程度の、男子から妬まれるくらいには女子に好かれる男子だ。
そんな彼の彼女を務めるのが、普通の顔立ち(だと思いたい)の、肉つきのいい足をした、スポーツも勉強もてんで駄目な、楸久遠というどこにでもいそうな女子。つまりあたしのことだ。

そう、どこまで言っても平凡なこのあたしが黄瀬の彼女です。
なんで彼女になんてなれたか?そこは聞かない約束だ。
・・・仕方ないから話してあげると、そこらへんにいる女子よりも執着心が強く、少しポジティブな思考を持ってたってだけだ。
それでも、本当に、心から、黄瀬のことは大好きだ。愛してる。あいらぶゆーだーりん。

黄瀬のためならどんな嫌がらせにだって我慢できたし、なんならやり返したこともある。
その現場を黄瀬に目撃されたときは死ぬかと思ったけど、彼はぶはっと吹き出したのだ。久遠っち最高っスわ、と本当に面白そうに言うのだから、ああこいつがゲスくてよかったと心から安堵したのを覚えている。
そしてその黄瀬のゲスさにあたしはますます惚れ直した。

な の に だ!

目の前の光景はナンデスカ?ワッツ?
えーっと、黄瀬が可愛らしい女の子を机の上に組み敷いちゃったりして?なんだか誘うような視線で?あたしには中々吐いてくれない愛のお言葉をあんな簡単に吐いちゃったりして?おいそこの女子今のあたしと立ち位置代われ。


「き、黄瀬くんっ駄目だよこんなところで・・・!」


うっせぇだまれブス、や、あたしもそんな可愛くないけど。


「なに言ってんの?めっちゃオレのこと誘うような目で見ちゃってさ?」


黄瀬もなに乗り気なのさなんでそんな顔近づけんのマジでやめてやめてやめて


「黄瀬ぇえええ!!」
「うっわあ!?」「きゃあ!?」


忘れ物取りに来ただけなのになんだこの仕打ち。そんなベタな展開望んでねーよバーカ。
黄瀬、あなた今日部活じゃなかった?ねえ?


「え、あ、久遠っちか。びびったあ」
「びびったあ☆じゃねーよ黄瀬あたしにもその興奮するような愛の言葉吐いてみてよ」
「え、むむむ無理っスよそんなの。つーか語尾に星つけるのやめて」
「なんでその子に言えてあたしには言えないの?理由を一文字以内で答えよ」
「一文字とかもはや言い訳すらさせてもらえねーつことっスよね・・・つーかこの状況になんか文句ないわけ?久遠っち」


これって、いわゆる浮気ってやつっスよ?

にんまりと笑った黄瀬。ゲスい。でもその表情もたまらなく好き。

別に、いくらポジティブだからって傷つかないわけはない。
ブロークンハートだ。あたしの心はガラスなんだよ。簡単にパリーンだよ。

でもそれを修復する時間なんて、一秒もかからないだけなの。


「文句なら山ほどあるよ。でもその前にさっきその子に言ってたような言葉をあたしにも言ってください!」


もはや呆然と乱れた服をそのままにする女の子は目に入らない。
睨むように黄瀬を見れば、楽しそうに笑った黄瀬は言った。


「久遠のそういうとこ、超好きっス」


そうして唇が重なる。


悲劇的にうつくしい人
何度堕とされても立ち上がる君がいとおしいよ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -