いつか白馬に乗った王子様が、あたしをきっと見つけ出して、連れ出してくれるの。
柔らかくて優しい笑みで、怖かったね、もう大丈夫だよって、涙を拭って額にキスしてくれるの。
お城につれてかえったら、綺麗な真っ白のドレスをくれて、左手の薬指にシンプルなリングをはめてくれるのよ。

いつか与えられた一冊の絵本のヒロインは、幸せそうに微笑んでた。
だから、あたしもきっとそうなるんだよ、こんな薄暗くて汚らしいところ、いつか絶対抜け出してやるんだから。

赤い髪のその男は、そうかよ、と適当な返事を投げてよこした。
周りにはいくつもの人間"だった"それが転がっている。


「じゃあ、今度は馬の傀儡でもつくってやろうか?それにオレが乗ればいい。戦闘用じゃないのを作ってみるのもたまにはいいかもしれないしな。ククッ・・・」
「そう、いう、意味じゃ、ないっ」


手を振り上げれば、手首に繋がっている鎖がじゃらりと嫌な音を立てる。
どこか楽しそうなその人は、もう何年もあたしを殺さないまま、ただ傍に置いている。

意味もわからずに連れられてきたこの場所で、泣くのも喚くのも無駄だと悟ったあの日から、あたしはただこの人の傍に居る。

ふいに手を止めた彼は、立ち上がってあたしの目の前まで歩いてきた。
いちいち近すぎるその距離にも、慣れたくないけどもう慣れた。


「何色が好きだ?」


白馬か、黒馬か、緑か赤か、それとも虹か?

真面目な顔で聞いてくるものだから、あたしもつい真面目な顔になって、そうだなあと首を捻る。
白馬に乗った王子様って言ったけど、そんなの一般的すぎる。
かといって黒も、なんだか怖い。緑?・・・赤?

そうだなあ。


「ううん、やっぱり馬はいらないかも」
「ほお」
「でも好きな色は赤だよ」
「好きになった色は、だろ」
「よくわかってるじゃない」


くっ、と喉の奥で笑ったその人は、真っ赤な髪のその男は、ひとをころしたとは思えないような手つきであたしの頬を撫でた。
ゆっくり重なって離れていった唇の、ぬくもりなんてなかったけど、柔らかいそれ。

本当は知ってるよ。
からだもこころももうここから、あなたから、抜け出せないなんてこと。


「冗談抜かす暇があったら・・・いや、なんもすることねぇか」


暇だから冗談言ったんじゃん。


だれにでも王子様がいるってママがいってたもの
あたしの王子様は、理想とは程遠い。
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