「部活入んねぇのか」
「はい!孤児院の手伝いあるし・・・」
放課後、部活の勧誘のため廊下をうろつく上級生の間をすり抜けながら会話する。
少し短めのスカートを揺らしながら、久遠は楽しそうにサソリさんも久しぶりに来ませんか?とスキップしだした。どんだけハイテンションなんだ。
孤児院か、懐かしいな。
ここのところ帰ってもすぐ鋏持たされてたし、たまにはいいかもしれねぇ。
長門の教室につく。
帰る準備をし終えた長門が、ちょうどこっちに向かって歩いてきていた。
「一緒に?いいんじゃないのか、きっと先生も喜ぶ」
「ですって!行きましょ、サソリさん!」
「オレのこと覚えてんのかそいつら」
「覚えてるだろう。なにせオレ達は飛び抜けて印象深い子どもだったからな」
「まあ中身子どもじゃねえしな・・・」
「まだサソリさんと居られる・・・!」
「おい一人だけ話の論点ずれてんぞ」
まあ、オレも、孤児院とかどうでもよくて、ほんとはまだ一緒に居たいってだけだったりしてな。
***
アイスの自動販売機の前で立ち止まる。
食べたい、と呟いた久遠に長門は自分の鞄から財布を取り出した。
おい、待て。
「お前自分で買えよ久遠」
呆れた声が出るのが自分でもわかった。
こいつ、昔から久遠に甘かったがここまでか。
長門と久遠は不思議そうな顔をしながらお互いを見て、小さく笑った。イラッときた。
「違いますよサソリさん!あたしのお金は長門が管理してるんです」
「・・・はぁ?」
「こいつに持たせておくとすぐになくなるからな。オレが調節してるんだ」
「んだそれ・・・お前自分の金の管理くれぇきちっとしやがれ」
「えへへもっとその目で睨んでくれてぐはっ!!痛いです愛の鞭ですね!!だったらあたし我慢します!!」
気持ち悪さも健在だ。
いつものだろう?と返答を待たずにボタンを押した長門に久遠は礼をいって落ちてきたアイスを取り出した。
なんだこれ、こいつら、こんなに近かったか?
「あ、だからはがすのは上からだっていつも言ってるだろう」
「だってこっちからのほうがはがしやすいもん!」
「そしたら手につくだろう、ほら・・・、」
「んげっ!ハンカチ、長門あたしのポケットからハンカチ出してー」
「はあ・・・わかってる」
・・・十年の空白は大きいな。
親子のような兄弟のような、そんなこいつらのやり取りをぼんやりと眺める。
もやもやと霧のような、どす黒くて汚いモノが胸中を渦巻いて消えない。