どだだだだだ・・・

誰かが暴れているのか、この重みのある走り方はきっと久遠に違いない。
オレはため息を押し殺して、洗っていた食器を拭きにかかる。
まったく、可愛いからといってつい甘やかしてしまうが、そろそろあいつも最年長の自覚を・・・「長門!!!」

驚いて食器を落としそうになったがなんとか持ちこたえた。


「なんだ、久遠、お前も少しは手伝え、ばか」
「長門聞いて長門!!」
「聞いてないな。そんなに興奮して、一体なにが」
《長門か。久しいな》
「っ・・・!?」


久遠の手にある受話器から聞こえるのは、懐かしさを感じる、声。
思わず息を呑んでそれを凝視する。
相手の顔が見えるわけではないのに、うっすらと口元に笑みを浮かべるオビトの姿が見えた気がした。


「オビト、なのか・・・」
《オレ以外にこんな声をした輩が居るのか?それならば一度垣間見てみたいものだな》
「言うねオビト!ちょっとイケボだからって調子乗らないでよ!」
《ふん、お前も相変わらずか》


くつくつと、喉の奥で押し殺したように笑うその声は正しくオビトのそれだ。
食器と布巾を置いて、久遠の傍に寄る。
受話器の向こうでは、なにやら動物の声が聞こえた。


「牧場の方とはうまくやってるのか?」
「あ、牛さんの声聞こえるー」
《そこから引き取られて、十年経つんだぞ?うまくやってるに決まってる。さすがに初めは馴染めなかったが》


オレにできないことなどないさ、と鼻で笑うオビト。
久遠が少し笑って、ばあか、と呟いた。


《・・・残ったのはお前と久遠だけか》
「ああ」
《学校には》
「通ってる!長門と同じ高校に入れたよ!・・・ギリだけど」
《そうか・・・》


もう、と牛の声がすぐ近くで聞こえた。
そろそろ仕事に戻ると告げるオビトに、少しさみしそうな顔をする久遠。
その頭を撫でながら、オレは小さく返事をした。


「オビト、約束、忘れないでよね!」
《わかってるさ。・・・また会おう》


その言葉を最後に電話はぷつりと切れ、無機質な音が響く。

しばらく受話器を見つめていた久遠は、パッと顔をあげて笑った。


「なんか、なんか、うれしいね!!」


そんな久遠の頭を撫でて、布巾を手渡す。

みんなと再会するその日も、そう遠くない気がした。
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