「久遠!久遠まだか!?」
「まっ、待ってちょっと待って長門マジで待って!!」
春。
慌しい足音とともに久遠がひょっこりと顔を出す。
ああ、また髪の毛を乱して。低位置にある櫛でリボンを整えたりと忙しいそいつの髪の毛を梳いてやれば、少し投げやりなお礼の言葉。
孤児たちが足元に集まってくる。
みな不思議そうな顔をして、オレと久遠を見上げていた。
「長門にいと久遠ねえ、どこいくの?」
「学校だよ学校!」
「久遠ねえ、長門にいとおなじようふくになってる!」
「久遠も今日からオレと同じ高校に通えることになったからな」
「しけん?とかで久遠ねえないてたもんね!」
「久遠は頭が・・・その、あれだから。義務教育じゃないし不安要素は盛りだくさんだったな」
「ぎむきょ、・・・?」
『そんな説明してもわかんないって〜』『遅レルゾ、二人トモ』
足元でゼツが鳴く。
その声が聞こえているのはオレと久遠だけだ。
ゼツにゃーん、と子ども達の注意がゼツ二匹に集まっているうちに、久遠の手を引き玄関に向かう。
「長門ぉ!リボン難しい!」
「時間が押してるからそれは学校についてからだ!」
「こんなかっこで入学式とか最悪、もう」
「久遠が寝坊するのが悪い」
「うぐっ・・・」
先生にも慌しく見送られ、オレと久遠は孤児院の玄関を出た。
***
初日から遅刻ということで、久遠は多くの生徒に深い印象を与えてしまったようだ。
入学式を終え、部活見学もせずに帰路につくオレたちには帰ってからたくさんの仕事が待っている。
それは、孤児たちの世話や先生の手伝い等々。
最後まで引き取り手が見つからなかったオレと久遠はいつしか小学校を卒業し、高校受験を経て現在に至る。
角都が一番初めに引き取られてから、十年のときが経った。
今みながどこで何をしているか、時々送られてくる手紙を見て二人して頬を緩ませる。
オレンジの光を浴びながら、久遠はどこか遠くを見つめていた。
「みんな元気にしてるかなあ」
唐突に呟かれた言葉に、小さく頷く。
夕焼けの赤は、サソリさんみたいだーと微笑む久遠にそうだなと返して、軽く頭を叩いた。
「よし、長門、院まで競争しよ!よーい、」
「走ったら危ないからやめろ」
「どんっ!」
こら!という声も届かない。
仕方なくオレも走り出す。
みんな、元気にしているか?
久遠は昔より、少し聞き分けが悪くなったぞ。
それでも変わらず笑顔が絶えない。
―――みんなも、変わらずに過ごしているか。