瞼を閉じて、浮かぶのは久遠の笑った顔。
サソリにくっついて眠るそいつを見て、思わず笑みがこぼれる。
布団をはいで久遠に近づき、そっと髪の毛を撫でた。
「・・・かならず、また会おう」
みんなを起こさないようにゆっくりと立ち上がる。
とくに意味もなく飛段を見て、それからメンバー全員を見て、オレは寝室を出た。
***
「本当にお別れを言わなくていいの?角都くん」
困ったような顔をした院の先生に、小さく頷く。
オレを引き取る相手、いかにも大富豪ですというような出で立ちをした年配の夫婦が、感心したようなため息をついた。
ここを出るのはみんなが寝静まった夜がいい。
そう言ったのはオレだ。そうでもしないと、非情にオレらしくないが・・・別れが辛くなるから。
久遠にここを出るのはあさってだとまでうそをついて、いつもと変わらない日を過ごして、でも、一番寂しい思いをしているのはオレで。
いつの間にこんなに人間臭くなってしまったのやら。
「いつまでも元気でね、角都くん」
手を振る先生に軽く頭を下げる。
引き取り手の女性の方がオレの手を取り、高級そうな車に誘導した。
"またね"
どこかで久遠の声が聞こえた気がしたが、振り返ることは、しなかった。