若干、嫌な予感はしてたんだ。
まさかそれが本当に当たるなんて思いたくもなかったけど、嫌な予感ほど当たってしまうあたしって実はなにか特別な能力でもあるんじゃないかなって。
・・・そんなこと思ってる場合じゃないのはわかってるんだけどねえ。
図書室と呼べるような、本がたくさんそろっている部屋の中。
適当にあたしを座らせた角都は、小さく笑ってあたしの頭を撫でてくれた。
そんなに顔に出てるのかな、あたし、そんなに不安そうな顔してる?
『もろバレだ。かりにも忍の世界にいたのだから、ポーカーフェイスくらいできるようになれ』
『むりにきまってるじゃん』
『、ふ』
角都は、笑った顔を崩さないままあたしの視界を手で覆って、言った。
『大きな金融会社らしい。資産はありあまるほどにあるが、どうにも子にめぐまれないと』
『・・・・・・・・・そ、っか』
真っ暗な視界の中、淡々と喋る角都の声は続く。
『久遠、きさまにだけ言っておくが』
『・・・ん、なに』
『この施設を出るのはあさっての正午だ』
それは、あまりにも唐突で早すぎる別れの合図だった。
***
「はあー、・・・」
みんなの寝室に戻っていった角都を見送り、その場で動けずにいたあたしは立てた膝に顔を埋めた。
角都が、いなくなる。
優しそうな夫婦に引き取られていったあの子みたいに、もうここに帰って来ることはなくなるんだろう。
どれだけ泣いても拒んでも、所詮"子ども"でしかないあたしたちにはどうしようもないことだと、言われなくてもわかった。見た目は子どもでも、心は違うのだから。
でも、どうしよう。
このままみんな、離れ離れになってしまうの、かな。
きっと、そうなる。でもそうなってしまったとき、あたしはあたしでいられるのか。
悶々と考え込んでいたあたしの肩に触れる手があった。
振り返らなくても、なんとなく分かった。こんな時、現れるのは決まって、
「・・・オビト」
彼なのだ。
オビトは表情を変えないままあたしの隣に腰掛け、適当に絵本を取る。
パラパラとそれをめくりながら、片手で無言のままあたしの頭を撫でた。
「オビト、あたしね、あのね」
ずっとみんなといっしょにいたいよ。
すっと頬に流れた雫は、重力に伴って床に落ちる。
堰を切ったようにあふれだしたそれ。
もう泣かないって、決めたはずなのになあ・・・
「久遠」
小さな手があたしの肩に回る。
ぼやける視界でオビトを見れば、彼は真面目な顔で言ってのけた。
「影で暁を動かしていたのは誰だ?十尾をてなずけたのは誰だ?あのマダラと接触をもち、戦争をしかけたのは誰だ?・・・オレを誰だと思ってる」
今は不可能でも、いつかみんながいっしょになれる。そういう場所をつくるのなんて、オレにとってはぞうさもないことだ。だろう?
普段は何かと気に食わないオビトだけど、さすが元黒幕だっただけある。
あたしは涙をふいて頷いた。
「さすがボス」
「うるさい。もどるぞ」
手を引かれ立ち上がる。
まだ胸は痛むけれど、不思議と不安は無かった。
きっと、あたしたちなら大丈夫。