バッと大きなスクリーンから目を逸らした久遠さんと目が合う。
暗闇でも分かるくらいに真っ赤になった彼女の頬。そんな彼女につられて熱を持つオレの頬も、きっと真っ赤なのだろう。
時は、一昨日に遡る。
***
"映画ですか?"
"そうっス!"
体を休めるのにでも使えとマネージャーから渡された映画のチケット二枚。
その時瞬時に脳内に浮かんだのは久遠さんの顔だ。そして、彼女を誘おうと決心したのはその一秒後。
嫌な顔をすることもなく、かといって嬉しそうな顔を覗かせる気配も微塵もなく、久遠さんはいつですか?と小さく首をかしげた。
これは、誘いを承諾してくれたと見てもいいのか。
変わらない表情の彼女に、いいんスか?と少し浮ついてしまう声で聞けば、なにがですか?と逆に聞かれた。久遠さんは変なところで疎い。
"や、断られるかと思ってたっス"
"・・・黄瀬君は、よく分かりませんね。断ったほうがよかったですか?"
もちろんそんなわけがない。
ブンブンと首を横に振れば、久遠さんは少しだけ笑った。・・・笑った?
笑った!
初めて見る笑みに、オレの心臓は一気に煩くなる。
聞こえてしまうのではないかとヒヤヒヤしながら、明後日の日曜日と約束を取り付けた。
***
「あ、んな破廉恥な、もの・・・!」
「すいませんっス、ふ、っ」
「笑わないで!」
キスシーンを直視できずスクリーンから目を逸らしていた久遠さん。
黄瀬君も赤くなってたじゃないですか、と痛いところをつかれ口ごもる。でもオレは真っ赤な久遠さんにつられてしまっただけで、キスシーンを見ていて赤くなったわけじゃない。
それに、第三者の視点からではなく実際に撮影とかでも女性と接近する場面は数多くあるのだ。
「じゃあ、次はどこに行く?」
「・・・え?まだどこか行くんですか?」
「え?まさか映画だけ観て帰るつもりだったんスか?」
「え、・・・」
「嘘でしょ、オレこれからカフェでも入ろうかと思ってたっスよ!」
「・・・そんなお金持ってきてないですし、」
「なに言ってんスか!こういうのは男に払わせとけばいいの!」
それに、まだ別れたくねぇし。心の中で呟く。
彼女の背中にさりげなく手を回して誘導すれば、困惑顔だけど抵抗することなく足を進めてくれた。
「・・・黄瀬君のそういう、慣れた感じとても嫌いです」
「がーん」
久遠さんの言う"嫌い"は、心の底からの言葉じゃないと知ったのも、つい最近。