そう、全ては彼の落としたお菓子を拾った日から始まった。
「久遠ちーん」
そう言って背後からあたしをホールドし、付きまとってくるデカブツ。
彼は紫原敦、陽泉高校バスケ部のレギュラーだ。あたしはそんな彼の部活のマネージャーというわけでも、ましてや同級生でもない。
完全ため口な紫原は、何故かあたしのことを久遠ちんと呼び、異様にくっついてくる。
春が過ぎて夏が来て、秋を感じる暇もないまま冬が来た。
冬だから今はちょうどいいくらいにあたたかくなるけど・・・って違う!
「どいて紫原!あたしはこれから移動なの!」
「オレと次の授業どっちが大事なのー?」
「次の授業に決まってるでしょ」
「それよりお菓子ない?」
「人の話聞いてる?ねぇ?ポッキーならあるよ」
「何味?」
「チョコ」
「げー!昨日もチョコだったじゃん。分かってないな久遠ちん、日替わりで提供しろしー」
「ごめんごめ・・・って知るか!」
思わずノってしまった。
これだから一向に紫原はあたしから離れてくれないんだ。
買っていたポッキーを紫原に渡し、彼の腕から逃れようともがく。
だけど彼は渡したポッキーを受け取らずに、あたしを抱きしめる力を強めた。
「久遠ちん、ほんと鈍いよね」
「は、は・・・?」
力の強い紫原にいとも簡単に、俗に言うお姫様抱っことやらをされたあたしは、人気の無い廊下に連れて行かれた。あ、死亡フラグ。次の授業が始まるまで、あと一分もない。
「オレが毎日毎日こんなにアプローチしてんのにさ」
「・・・ちょ、え?」
とん、と軽く壁に押し付けられ、目の前にはいつの間にかポッキーをくわえている紫原の綺麗な顔。
ポッキーの先端を口に押し付けられ、そのまま食べ始めた紫原は、止まることなくあたしの唇に自分のそれを押し当てた。
「いい加減、気づけし」
呆然と彼を見つめるあたしの頬が、熱いだなんて、そんなの気のせいだと思いたい。