「みやじぃ〜」
掠れた声で電話口で喋れば、電話の向こうで宮地が息を呑むのがわかった。
なにして、おま、大丈夫か?と低い声が耳に響く。宮地の向こうには木村や大坪がいるのだろう、楸か?なんて声が聞こえて私って愛されてるんだなぁと若干嬉しくなった。
マネージャーの容態が気になるのは当たり前か。気にしてくれなかったらへこむ。
「熱出た」
『んなこた知ってんだよ。なんでオレに電話なんかかけてきてんだ寝とけ』
「暇なんだもん。風邪なんて引くもんじゃないわーしんどいわー」
『最近何時くらいに寝てんだ?』
「・・・二時」
『自業自得だろうが。轢くぞ』
「だってみんなのデータとかまとめてたら遅くなっちゃうんだもんー」
ずびっ、と鼻をすすれば、う、と口ごもる宮地。
ああごめん、そんなつもりで言ったんじゃないよ、好きでやってるんだし。
私の体が弱いだけだから、と言えば、納得がいかないのかしばらく唸っていた。
『・・・悪ぃな、気づかなくて』
「ええ宮地らしくない。そこは体調崩さねぇようにしながらデータでもなんでもまとめやがれ、とか言わないの?」
『さすがにそこまで鬼じゃねえよ、つぶ・・・』
「つぶ?」
『・・・・・・なんでもねぇ』
大方潰すぞ、と言い掛けてやめたんだろう。
根は優しい宮地を思い出し、私は少し笑った。
『お前、プリンとゼリーどっちが好きだっけ?』
「え、なに。どっちも好きだけど」
『どっちかにしぼ・・・いやまぁわかった了解』
「なになに、まさかお見舞いにでも来てくれるの?」
移したらいけないし遠慮したかったけど、風邪を引くと人肌恋しくなってしまうというのはどうやら本当らしい。
来てプリンとゼリー受け取って一瞬抱きついたら帰ってもらおう。
そう決めて、私は待ってると電話口に向かって言った。
『今日だけ特別な』
風邪もたまにはいいかもしれない。