忍というのは大変な役職だ。
体力もいるしセンスもいるし、なにより根性がいる。
センスと体力は持ち合わせながらも、根性という部分に関して欠けてしまっているあたしは、任務帰りの道でよろよろと歩いていた。
もうアジトに帰らずにここで寝てしまいたい。
体力がないわけではない。ただ、気疲れがすごいのだ。
暁に勧誘され入ったのはいいのだが、別に人を殺すのが好きだとか思ったことは一度もない。むしろ嫌いだ。
ああ、遠い。そして疲れた。
根性のないあたしは、とうとう地面にお尻をつけて座った。
もう真夜中、人通りの少ない(ていうか人いない)この道で、誰かに見られるなんてことはなく、立てた膝に顔を埋める。
今日殺したのは、数人の若い命。
詳しい内容は聞いていないけど、暁にとって今後の不安材料だったに違いない。
・・・だって、まだ何も知らない無垢な瞳をしてたから。
ぎゅう、と拳を握り締める。
「こんなところで何をしている?」
ハッと顔を上げると、暗闇に溶けてしまいそうな暁共通の衣を着たイタチが赤い瞳をあたしに向けて立っていた。
咎めるまでもなく、ただ質問を投げかけるだけの彼に少なからず安心して、あたしはふいと顔を背ける。
別に、イタチには関係ないよ。
自分でも驚くほどあたしの声は震えていて、ああ、泣きそうなのだなとどこか他人事のように思った。
つ、と何かが頬を伝った。
イタチは無言であたしに近寄り、その綺麗な手を伸ばしてきて優しくそれを拭ってくれた。
彼は同胞殺しの残忍な忍だというが、その手つきからは彼の優しさしか感じ取れるものがない。
彼もまた、あたしと同じように、本当は殺しなんてしたくないんじゃないのだろうか。
そんなバカなことを考えて、また少し泣きそうになった。
「帰るぞ」
「・・・どこに?」
「アジトに決まっているだろう」
「べつに、いい。イタチ帰っていいよ」
「・・・それではオレがここまで来た意味がなくなる」
「どういう、」
言いかけて止めた。
別にコンビネーションがいいわけでも、仲がいいわけでもない暁のメンバーは、ただ"暁"という組織によってつながれた、ただの人だ。
誰かの帰りを誰かが待つ、なんてことは皆無に近い。
では、イタチは。
紅の双眸を見上げ、あたしは足に力を入れて立ち上がった。
「しょうがない奴だな」
オレも、お前も。
二の句は告げなかったけど、困ったように薄く笑うイタチは確かにそう言っている気がした。
あたしは差し出された手を取って、そうだね、と呟いた。
久しぶりに感じた、ぬくもりだった。