ぎちぎち、と破裂せんばかりにボールを掴む手に力を入れる笠松を見て、森山はやれやれと薄く笑った。
ご立腹な様子の我が部部長の視線の先には、楽しげに会話する黄瀬と、今年新しく入って来たマネージャーの楸の姿があった。

森山は、彼氏なんだったら堂々と奪えばいいのに、と一人ごちた。

そう、女が大の苦手な笠松が人生初の一目惚れというものを体験し、苦労に苦労を重ねてやっと手に入れたのが、楸久遠だ。
付き合ってからも笠松の挙動不審な態度は変わらず、本当に付き合ってんのかと聞きたいくらいに二人の関係はなんら変わりがない。
でもまぁ、休憩時間などで時たまケータイを見て頬を緩ませる彼を見る限り、上手くいってるんだなくらいには、森山は認識していた。

女好きの自分には一向に彼女が出来ないというのは、どういうことだろう。

甚だ疑問だ、と今日も森山は首をかしげる。
おっといけない、少し話がずれてしまった。

そう、笠松も楸の彼氏なんだから、あんな浮ついた顔で彼女にちょっかいを出す黄瀬なんかいつものごとく蹴り倒せばいいものを。
森山は思ったことをそのまま口にした。


「あ?・・・んなことできっかよ。あんな楽しそうに話してやがんのに」
「笠松・・・お前人が良すぎだ。そんなんじゃ久遠ちゃん黄瀬に取られるぞ?」
「・・・・・・」


別に、決して、まだあんまりまともに話せねぇとかじゃねぇからな。

少し頬を染めながら、しかし恨めしげに黄瀬を睨む笠松。
マジか・・・と森山は渋い顔をした。
こいつら付き合って何ヶ月だ?三ヶ月記念だとか言って、こないだ楸は喜んでいたような記憶がある。

・・・三ヶ月で、まだまともに話せない?

苦手とかいうレベルじゃなく、ここまで来たらただのヘタレだ。
森山はため息を吐きながら緩くドリブルをした。


「でも、マジの話・・・黄瀬のやろう、他の女子には見せない笑顔だぞ?あれは」


久遠ちゃん限定って言っても過言じゃないと思うけど。

言動を除けばイケメンな黄瀬を見ながら、森山は言う。
ちら、と笠松を見ると、額に青筋を浮かべていた。そしてまた黄瀬たち二人を見ると、なんと、黄瀬が楸の頭を撫でているではないか。

瞬身の術でも使ったのかと思うくらいのスピードで駆けて行った笠松に、森山は心の中で黄瀬の追悼式はいつになるかな、と思い笑った。


「黄瀬ぇぇぇぇぇぇええええ!!」
「うわっ!なんスか笠松せんぱっぶふう!?」
「え、笠松先輩?」
「てめぇ!人様の彼女に気安く触ってんじゃねぇよ!!」
「渾身の蹴りでしたっスよね!今!痛い!!」
「か、笠松先輩、黄瀬君仮にもエースなんだからもっと力加減して蹴らなきゃ・・・」
「久遠っち突っ込むとこ違う!」


蹴るという事実を否定して欲しかったっス、と泣きまねをする黄瀬。
楸は困ったように笑った。

は、と我に返った笠松は、楸との存外近い距離に驚き一気に赤面する。
だが踏み留まり、思い切って彼女の肩を掴んだ。


「きょっ、今日!いっしょに、いっしょに帰ろう!!」
「え!?あ、・・・はい・・・」


二人して赤面し、うつむく姿はとても付き合って三ヶ月とは思えない。

世界が違う恋人同士を見ながら、黄瀬は唇を尖らした。


「ったく、これじゃキスとかその先とか・・・久遠っちの口からそういう惚気話が聞けるのもまだまだ先になりそうっスね・・・」

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