マフラーを巻いても、さして問題がない季節になってきた。
そして今日は、特別寒い。
荒れそうな空を体育館の中で見上げながら、オレは小さなため息をついた。
冬でも汗をかいてしまう、ハードな練習。
こりゃー久遠ちゃん、帰っちゃってるよな。
ボタボタと流れる汗を拭いながら、オレはまた小さなため息をつく。
それを知ってか知らずか、真ちゃんはお前がため息をつくなど気持ちが悪いのだよ、と嫌悪感を露にした表情で毒を吐いた。
「今日も居残り練習すんの?」
「当たり前だ。オレは常に人事を尽くす。・・・お前は残らないのか」
「んー・・・や、仕方ねぇからパス練でも付き合ってやっか」
「別に必要ないが」
言いながらちゃっかりボールを渡してくるあたり、真ちゃんはマジでツンデレだとオレは思う。
***
「っはー、冬だってのに体あったかくて逆にキモいわ」
居残り練習も終え、真ちゃんと二人で玄関に向かう。
もともとそんなに喋るほうではない真ちゃんだから、主に口を動かしているのはオレの方。
考えなくてもあとからあとから言葉が出てくるのだから、自分でも少し可笑しくなってしまう。
オレのツボはとことん浅い。
「・・・おい」
「んえ?」
「あれは、お前のではないのか」
「は?お前の・・・?」
背の高い真ちゃんの視線の先を辿ると、下駄箱に寄りかかって白い息を吐く、見覚えのある小さな後ろ姿。
思わず真ちゃんの存在を忘れてその後姿に向かって全速力で駆け出した。
なんで、なんで。
「久遠ちゃんっ!!」
「あ、高尾くん。おつかれさま」
そう言って、ふわりと笑ったのはオレの恋人である久遠ちゃん。
寒さで鼻の頭は真っ赤で、手も真っ赤で、なにしてんのと問えば、きょとんと目を丸めてオレを見上げた。
「何してるって・・・高尾くん待ってたんだけど・・・?」
「天気が悪くなってきたら、先帰ってって言ったよね?オレ」
こんなに手先を冷たくして、風邪でも引いたらどうすんの?
悲痛なオレの思いが届いたのか、困ったふうに眉尻を下げながらも久遠ちゃんは笑った。
「でも、だって、高尾くんと一緒に帰りたかったから」
「・・・っもー・・・!」
たまらなくなって抱きしめる。
どれだけの時間ここにいたの、こんなに冷たくなって。
バカだな久遠ちゃん、本当に、ばか。
首元に顔を埋めれば、女の子特有のいい香りがした。
ばかばか言いながらも、胸中で嬉しさをかみ締めてるオレは、久遠ちゃん以上に大バカだ。
「・・・久遠、マジ好き」
「えっ、あっ、ありがとう・・・」
戸惑った彼女の小さな方が盛大に揺れて、オレは小さく笑った。
時と場所を考えるのだよ、と真ちゃんの咎めが聞こえた気がしたけど、今はもう少しこのままでいさせてくれよな。