「クオン、少しいいか」
兵長の部屋の掃除を手伝っていたある日の夕暮れ時。
肩を掴まれ振り返れば、しかめっ面をした兵長。なんだか嫌な予感がして、わたしは恐々なんですかと聞き返した。
「今夜だけでいいんだ」
「なにがですか」
「今夜だけでいい」
「だからなにがですか」
「・・・オレと一緒に寝てくれないか?」
「・・・What?」
今なんつったこの人。
聞き間違いかと思い、まじまじと兵長の顔を見つめる。それはもう穴が開くんじゃないかってほど見つめた。
兵長は至って真面目な顔で、でも少し気まずそうに目を逸らした。
「・・・聞き間違いじゃ、」
「ねぇぞ」
「・・・Why?」
「・・・どうしてもお前が必要なんだ」
「すみません、訳が分からないです」
「別に、あれだ。今日ハンジとエルヴィンが怖い話をしていてそれを傍らで聞いていたオレは実は怖くて、それで眠れねぇなんて、そんな子どもじみた理由ではねぇんだが・・・」
「・・・・・・」
「・・・本当に、今夜だけでいいんだ。頼む」
理想が崩れた音がした。
三十路で強面の人類最強が、実は怖がりだなんて、本当に笑えないじゃないか・・・!
普通ならときめくであろうお言葉も全くときめかない。ていうかわたしのときめきを返せ今すぐ。
かといって上司の頼みごとを断ることもできず結局一緒に寝てあげたわけだが・・・
抱き枕にされるこのわたしの複雑な心境は一生誰にも理解できないだろう。
次の日の朝、わたしがハンジさんと団長に兵長の前で怖い話をするなと言いに行ったのは、言うまでもない。