わたしの恋人は短気であるが故に、舌打ちがとても多い人だ。
それはもう半端なく多い。一日に二桁いくほどはするだろうか。
短気というか、もはや自分にとって気に入らないことがあればすぐに舌打ちをする。
今日もわたしがサソリの傀儡に少し触れただけで盛大な舌打ちをもらった。なぜ。
さすがにこの行為だけで舌打ちをかまされる必要はないと思い、腕を組んでわたしを睨むサソリを睨み返す。
眼光は言わずもがなあちらのほうが強い。あっぱれだ。さすが何人も手にかけてきた男なだけある。
思わず逸らしそうになったが、わたしは耐えて何も言わずに睨み返すことを続行した。
何分睨み合いをしていたのだろうか。
サソリは小さくため息を吐いて、こっちに来いと自分の膝を指差した。
その瞳はもう怒りを含んではいない。わたしは少し安心して、小さな歩みでサソリのもとまで行く。
遅いことに痺れを切らしたのか、また舌打ちされた。
でもそれとは裏腹に、手を伸ばしてくれるサソリ。
見た目よりも大きくて心地よい腕の中。
オレの傀儡に触んなと重みのある声で言われ、何故と聞き返す。
するとすぐに、あれのもとは人間だ。オレが殺した人間だ。そんなものをお前に触らせてたまるか。お前を穢したくねぇんだよ馬鹿、とわたしの肩口に頭を置くサソリ。
とても愛おしかった。
サソリわたしのこと大好きだね、と笑えば、予想してた通り舌打ちをするサソリ。
「違うな。愛してんだ」