世の中には、出来る人と出来ない人がいる。
そのせいで"才能"という単語が誕生したと私は思っている。
だってみんな平等な力を持ってたら、そもそも"才能"なんて言葉は生まれないでしょう?
それは"天才"だとか、"平凡"だとかも同じこと。
放課後、何故か教室に二人きりで居残っている氷室くんにそんな話をした。
氷室くんは少し悲しそうに笑った。きっと彼も同じことを思ってるに違いない。
そんな彼だからこそ、私は話したのだから。
「平等平等言うけど、実際そんな甘いことなんてないよね」
ひがみだって言われたら、そりゃあそこでおしまいだけどね。
そう言って口端を上げて見せれば、氷室くんはどこか遠くを見つめた。
その先に、どんな想いがあるのかは分からないけど。なんとなく、紫のあの人を連想させるような瞳だった。
机に置いてあるトランペットに目を落とす。
何倍も頑張ってるつもりの私よりも、今年入ったばかりの後輩はぐうの音も出ないような綺麗な音を出すのだ。
あがいてもあがいても、超えられない壁。
そう、現実は甘くない。
「・・・わかりたくないけど、わかるよ」
氷室くんはそう言って、また微笑んだ。
彼の頬を涙が伝ったような気がして、私は目をこする。
「泣かないで」
「? え、」
すい、と伸びてきた彼の手は私の目尻に溜まった雫を掬い取り、それからそのまま頭を引き寄せられた。
泣くつもりなんてなかったのに、彼の腕の中は本当に温かくて。
あとからあとからとめどなくあふれる涙に、視界がにじむ。
「僕も同じだ」
頭上で聞こえた彼の優しい声に、救われた気がした。