迫り来る巨人の群れに、遠い記憶がフラッシュバックし一瞬動けなくなった。
そんな自分に舌打ちし、訓練の成果を生かすべくワイヤーを出し宙を舞う。
なんとなく辺りに視線を巡らせば、恐怖に苛まれながらも勇ましく戦おうとする仲間達の姿があった。

・・・ジャン、生きてるか。

天性の身のこなしで己を食わんとする巨人を最小限の動きでかわし、削ぐ。

どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「クオン!」


気のせいではない。
その声は紛れもなく自分が想いを寄せる彼のもので、らしくもなく安堵の息が漏れた。


「おーおー生きてんジャン。なかなかしぶといな」
「ダジャレかます余裕があるんだなてめぇは相変わらずだな」
「へへ。そう見えるか?」
「まったく」


どんなに肝が据わってても、一ミリも怖くないわけはない。
心なしかいつもより顔色が優れない二人。それでも次々に死んでいく仲間。

迫り来る巨人に、今度こそ怖気づかず、クオンは刃を取り出した。


「内地志願者がこんなところで死ぬなよ?」
「はっ・・・死ぬかよ。死ぬには遣り残したことが多すぎるんだよ」
「ミカサに告白とかか?ぶふっ」
「笑ってんじゃねーよバァカ!!」
「ジャン好きだー!」
「何回も聞いた。飽きた」
「ひっでーなオイ」


笑いながらワイヤーを巨人のうなじに刺すクオン。
手際よく削いでいく様は、さすがと言うべきか。ジャンはこの状況下でそんなことを考えながら、自分も巨人を倒すべく刃を振るう。

そもそもそんな余裕が持てるようになったのは、それもこれもクオンのせいでもある。
訓練兵である時からいつもへらへらと笑っていた彼女。それに振り回される自分。

・・・いつからだろうか、そんな彼女が自分にとって―――


「おい!クオン!」
「なに!!」
「死ぬんじゃねーぞ!」
「ん!?なんて言った!!?」


死んでほしくないと、大切に思うほどの存在になったのは。


「・・・死にそうになったらオレを呼べブス!守ってやる!」
「ほざくな馬鹿ジャン!あたしの方が実力は上だ!!」


巨人の返り血を浴びながら、二人は宙を舞う。

その様子は訓練兵として絡んでいた頃となんら変わりない。

口元に笑みを浮かべながら、クオンは刃を振り抜いた。

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