紅茶をすすりながらリヴァイの横顔を見ていたクオンは、ふと思ったことを口にした。
「ねーねーリヴァイ」
「・・・あ?」
「ちょっと普通に返事できないの。怖いよバカ」
「そんなこと思ってもねぇくせに。なんだ」
「よく分かったね。あのさ、私が巨人に食われたらリヴァイはどうなるのかな」
まるで呼吸をするように紡がれた言葉は、とても残酷なものであり、だがこの世界では考えられなくもないことであった。
リヴァイは一瞬クオンを見て、また書類に視線を戻す。
「・・・どういう意味だ」
「え、そのまんまだけど。あ、ごめん言葉が難しかった?」
「てめぇはオレのことバカにしてんのか」
クオンとハンジはどことなく似ていると、リヴァイは関係のないことを思った。
視界の隅でクオンの漆黒の髪の毛が揺れたのがわかった。
「ねーね、どうなると思う?」
「・・・そんな来るかもわからねぇ未来のことなんざ知るか」
「えー」
「逆にお前はどうなんだ」
「え、私?」
リヴァイが聞き返すなんて珍しいねーと屈託のない笑みを浮かべながら、クオンはそーだなぁと首をひねる。
リヴァイが食われるなんて想像もつかない、ていうか逆に食っちゃうよね。そう言って笑った。
それを言うなら削ぐだろうと、呆れの混じった目を向けられ、クオンはまた笑う。
「でも、うん・・・そうだなぁ。他の誰が死ぬときより、数倍悲しくて悔しくて憤ると思うんだよね」
「・・・はっ」
「あ、鼻で笑った。最悪ーこれでも真剣なのに」
少し眉間に皺を寄せるクオンだが、本当に怒っているわけではないと分かっているリヴァイにとってはなんら慄(おのの)くことではない。むしろリヴァイは何に対しても慄くことはないだろう。
紅茶を飲み終えたクオンが立ち上がり、リヴァイの傍まで移動して書類を覗き込んだ。
壁外調査とその時の死亡者、重傷者、生存者。形見の一つも残らない、亡くなった仲間の名前が、いくつも載っていた。
「・・・そうだな」
生存者の欄に記載されている自分とクオンの名前を目で追いながら、リヴァイは口を開いた。
「お前が食われて、例えば手足ばらばらになって首だけになったとしても、オレは絶対にお前を見つけ出すだろうな」
「わーお」
「まぁ・・・できれば息をしている姿のまま見つけ出したいが」
私情を挟むことはできないと分かっていても、お互い。
やったー、お願いねとリヴァイの髪の毛をぐちゃぐちゃにするクオンに、彼は舌打ちをして、だが何も言わなかった。