「・・・お前がいてよかった」


並んで空を見上げていた時、仮面の奥でオビトさんがそう言った。
彼にしては珍しくて、思わずその仮面の奥の瞳を凝視してしまう。赤い目は、確かにわたしを捉えていた。


「どうしたんですか、急に」
「・・・いや、」


ただふと思っただけさ。

そう言って、オビトさんはわたしから視線を外してまた空を見上げた。
なんとなく彼は哀愁漂う雰囲気を醸し出していて、これから始まる惨劇に向けて覚悟を決めているように思えた。
いつまでも夢見る、哀れな男の人。それがオビトさんで、わたしはそんな彼が好きだった。その瞳でどれだけの死を見てきたのだろうか、想像はつかないけれど。


「宣戦は布告した。・・・あとは、実行するのみだ」
「そうですね」
「オレはこの戦争の中心となって、そしてこの世界を終わらせる」
「新しい、誰もが幸せな世界を創るんでしょう?」
「ああ」


それは、忍ではないわたしにとっても幸せな世界なのだろうか。
オビトさんにとっての幸せは、"彼女"が生きていた世界でしか成り得ない。
それを創るのだから、きっと、わたしはもう用済みなのだ。
ただの都合のいい、存在。・・・初めから、わかっていたけれど。


「わたしも幸せになれますか」
「、久遠」
「その世界でわたしは、笑えますか」
「オレは」
「幸せになってください、オビトさ―――」


最後まで言い切ることは叶わなかった。
腕を引かれたわたしは、そのままオビトさんに抱きしめられる。

いまさら、こんな、本当に酷い人。
にじむ世界で、オビトさんはわたしの耳元で囁く。


「久遠、お前がいてよかった」
「、オビトさん」
「よかった」
「やめて、ください・・・!」
「出会えて、よかった。・・・すまない」


熱いなにかが心の蔵を貫いた。
視界が真っ暗になっていくその瞬間に、わたしは見た。
微笑みながら、涙を流すオビトさんを。確かに、見た。

オビトさん、オビトさん。
わたしの最期を、オビトさんが見てくれているだけで十分です。

あなたが"彼女"を忘れられなくても、わたしは。


「・・・新しい世界でまた、会おう」

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