「・・・ごめん」
そう言いながら、涼太は私の手を強く握った。
じんじんと痛む頬。
涼太の目に光る何か。
どの組かもわからない、夕暮れ時の教室の中。
大丈夫の意味を込めて涼太の頭を軽く撫でれば、バッと顔を上げた彼の表情はなんとも苦しそうなものだった。
ああ、そんな顔しないで。
私は来てくれただけで、それだけで本当に救われるんだから。
涼太は多くの女の子から好意を寄せられている。
そんな彼の恋人というポジションにある私が、妬まれないわけないんだもん。
恋人が私じゃなくて他の誰かだったら、私だってその子に嫉妬してたはずだもん。
だから、こんなの、可愛いものだと思えばいいんだよ。
涼太の恋人っていう証なんだから。
「でも、久遠、痛いッスよね」
「・・・・・・、」
ごめん、守れなくてごめん。
とうとう涙を流してしまった涼太につられて、私の頬にも透明な雫が伝った。
高身長の涼太が、座り込む私の背中に手を回してきつく抱きしめてくれる。温かい。
肩にうずまる涼太の顔。頬をくすぐる涼太の髪の毛。
全部全部愛おしいから、私は我慢できる。この痛みだって、我慢できるんだよ。
「でも、オレ、絶対に別れたくない」
「、りょ、た・・・」
ゆっくりと顔を上げて私の瞳を覗きこむ涼太の表情は、さながら捨てられた仔犬のようで、思わず笑ってしまった。
私の目尻に残った涙を拭いながら、涼太はまた私を抱きしめた。
「絶対に守るとは、・・・ごめん。言い切れないッス。でも、絶対助けるから」
「・・・うん、」
「助ける、からっ・・・!」
「涼太、待ってる」
「・・・っ久遠・・・!」
それにね、嬉しいんだよ。
私を取り囲むファンの子達を気にした素振りも見せず、まっすぐ私に手を伸ばして抱きしめてくれることが。
一途に想ってくれる涼太が、愛おしくてたまらないの。
「・・・いちばん、だいすき」
「わたしもだよ」
触れた唇は、少しだけ涙の味がした。