夏の大イベントを完全制覇したいなぁという可愛らしい久遠の要望で、やってきたのはとある街で行われている夏祭り。
種類の豊富な屋台に目を奪われる暁のメンバーを見ていると、少し面白い。

カキ氷はイチゴ味が一番だと言うサソリに、レモンだと否定するデイダラ。
鬼鮫がハワイアンブルーだと言えばサソリの鋭い眼光に黙殺されていた。哀れ鬼鮫。
マダラとイタチが射的に足を運んでいる。雰囲気から察するに、なにか賭けた戦いなのだろう。二人とも目が少し怖い。忍の時の貫禄が消えないのだ。
小南がゼツ二匹を抱いて、そんな皆の様子を面白げに眺めている。
金をせびる飛段に、角都が首を横に振ったところで、久遠の姿がないことに気が付いた。


「っ久遠・・・!?」


どこに、行った・・・!?
焦ってあたりを見渡す。人でにぎわうこのイベントが、今だけは恨めしい。
真夏で暑いはずなのに冷や汗をかきながら目を凝らす。見覚えのある背中を見つけ、急いで駆け出した。


「久遠っ!!」
「ふぉっ!?・・・長門?どうしたの、そんなあわてて」
「っばか!」
「いだっ!!?」


反射神経の鈍い久遠はオレの渾身のチョップを避けきれず(反応すらできてなかったが)、まともにくらってカエルが唸ったような声を出した。
訳も分かっていないのか、この馬鹿。
お前がいなくなることでオレの寿命は半分くらい縮むんだ、心配かけるな馬鹿。

一気に捲くし立てれば、久遠は少し驚いた様子でそれから嬉しそうに笑ってごめんねとオレの手を握った。
体温が上昇したのはきっと気のせいだ。


「ほら、もどるぞ」
「・・・もどるってどこに?」
「どこにって、・・・みんなのところ、」


多くの人でにぎわう夏祭り。
あたりを見渡しても目立つはずの赤や黄色の頭は見当たらず、久遠と顔を見合わせる。


「・・・迷子になっちゃったね!」
「お前のせいだろう・・・」


完全にはぐれてしまった。久遠だけははぐれないように、握られた手を強く握り返す。
こいつのせいでみんなのはぐれたのに、何故か憎むことができないのは、やはりオレはこいつに甘い。
と言っても、長い間はぐれるのはあいつらの心臓にも悪いだろう。
早く合流して無事を知らせなければ、


「長門!カキ氷たべよう!」
「ぅわっ!?ちょ、久遠ひっぱるな・・・!」
「おじちゃん、カキ氷ふたつくださいっ」
「きいているのか久遠っ・・・!」


オレの言葉もまるで聞こえていないかのように、久遠は笑顔で年配の方に笑顔を向けている。
店主はオレ達のつながれた手を見て、「ちっちぇーのにかぁいいこったな!」と言いながら甘い蜜のかかったカキ氷を持たせてくれた。

・・・店主、絶対変な勘違いをしている。
そんな風に小指を立てないでもらいたい。

勢いに流され、少し人通りの少ない路地に抜けて二人で座り込む。
おいしそうにカキ氷を咀嚼する久遠を見て、・・・まあ、こういうのもアリかと、またつい許してしまった。


「おいし?」
「・・・ああ」
「・・・長門のそれ、メロン味?」
「? そうだが」


じ、っと見つめてくる久遠。
何事かと首を傾げれば、ちょっとちょうだいと久遠が口を開けた。


「・・・え、は・・・!?」
「?」


ななななんだ!?
なんだその食べさせてみたいなポーズ!
可愛すぎるだろう!!やめろ!!

固まっていると、久遠はもともと大きな目をさらに丸くして、ニヤリと笑った。


「んもう長門ちゃんたらウブなんだからぁんっ」
「ちょ、な、まっ・・・!」
「しかたないから、あーんはガマンしてあげる!」


オレのカキ氷を奪って、オレのスプーンを使って、それを食べる久遠。

・・・っか!!!!!
間接キス!!!??

思わず久遠の唇を凝視してしまった。


「ななななな、おま、久遠っ・・・!」
「んー?」
「かっかかかんせつ、かんせつ」
「ん?・・・イヤだった・・・?」


丁度良い角度で見上げそして首をかしげる久遠おいいいいやめろ本当で!
あざとい!
なんだこの生き物はっ!?


「い、や、なわけでは・・・いやじゃない・・・!」
「じゃ、いーじゃん!・・・あ。長門、あたしが買ったイチゴ味もたべてみる?」


熱を冷ますには丁度良い。
オレは震える体をいなしながら頷いた。


「はい、あーん」
「・・・・・・・っ!?」


・・・もう駄目だ。

小南、そして弥彦。
オレは今日、きっと死んでしまうだろう。
あざとすぎて、そしてこの世で一番可愛く愛おしいこいつの笑顔によって。

スプーンの先に乗ったカキ氷がオレの唇に触れた。

天国か・・・
のどかなところだといいな・・・


「おいしい?」


こてんと首をかしげた久遠に頷くことはなく、オレはそのまま久遠の体に倒れこむのだった。


***


「おい、小南・・・いつまであんな茶番見てなきゃなんねーんだ・・・!」
「今回は旦那に賛成だぜ、オイラも・・・!」
「あんないちゃいちゃいている姿、これ以上見ていたらアマテラスを発生させるぞ・・・!」
「安心しろイタチ、スサノオで援護してやる・・・!」


殺気立っているサソリデイダライタチオビトを黒い笑みで無理矢理黙らせた小南は、長門と久遠を振り返って頬を染めた。


「ふたりとも・・・かわいいんだから・・・!」


小南の妙な性癖を目の当たりにしたゼツ二匹は、少し引いたとかそうでないとか。

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