浴衣浴衣、浴衣どこにあったっけなー・・・

ゴソゴソとクローゼットをあさる。
アサガオ模様の服が見えた。引っ張り出してみると、えらく長い間着ていなかった古っぽい浴衣。
帯もある。

いかにも、肝試しは定番だ。どうせなら百物語だよ!

うるさいきぐるみの分際で・・・!
忌々しいネコのきぐるみを頭の中で何度も踏みつけながら、着付けを始める。
なんだかみんなが乗り気なのに一人断るのは気が引けて、結局「浴衣絶対着用」という雪比奈の言葉に乗せられているあたしである。
泪はどんなのを着てくるんだろう。糸がほつれた袖をみて、少し悲しくなったことは秘密だ。


***


浴衣を着付けたあたしを見て、いつも無表情の雪比奈が少し驚いたように目を見開いて小さく舌打ちした。え、なんでだ。


「着付け、できたのか」
「当たり前じゃんこんなのできなくて誰がするの」
「・・・オレが着付けてやろうと思ってたのに」
「セクハラで訴えるよ」


そんな変態発言をかます雪比奈、さすがイケメンなだけあって上手く浴衣を着こなしている。悔しいけど見惚れてしまった。
少しはだけた胸元とかなんなの。それ狙ってるの?
目が合ったからそらしておけば、小さく笑われた。・・・悔しい・・・!


「惚れた?」
「まさか」
「嘘はつかなくていい」
「ついてないっつの。・・・!、それを言ったら雪比奈、虹次の方が完璧に着こなしてるからね」


視界に入った虹次は、はだけた胸元から腕を出して、古風の姿だった。
ダンディー惚れる。あれこそ日本男児だよ。


「どうした久遠。惚れたか?」


妖艶に笑った虹次に頷く。
声を出して笑い始めた虹次の後ろにすごい形相の雪比奈がいたことは、見えなかったことにしておこう。
決めた。あたしが語る百物語のうちの一話。
虹次の背後に現る鬼。まる。


「では、始めようか・・・」


ふっ、と部屋の電気が消された。
百物語、スタートだ。


***


「物音はするが、気配もなにも感じられん。振り返り今一度確認するも、何も居ぬ。前方に向き直ると―――」
「ぐああああああああああもういい!もういいよ虹次ロウソク消して!」
「・・・いかにも久遠くん、オチを聞かずにロウソクを消すのはいかがなものかと思うのだが・・・」
「黙れクソネコお前あたしが怖がりなの知っててやってんだろこれ!?そうなんだろ!?」
「久遠かわいい」
「雪比奈お前もう黙れキャラがわかんねーよおおおおおお!!!」


99個目のロウソクが消えた。
ちなみにあたしはまだ我慢したほうだ。泪なんか三個目の話でダウンした。
今は縁側で伸びてる。

夏なのにどこか肌寒い。それは言わずもがな雪比奈が非情に余計なことに少量の冷気を漂わせてるからである。
なぜかって?雰囲気づくりだよクソいらねーけどそんな雰囲気!!
さらに隣に陣取る雪比奈がする話は、無表情なせいもあってとてつもなく怖かった。
おしっこ漏れそうになったもん。でも怖いからトイレいけない。漏れそう。


「さて、トリを飾るのは誰だ?」


虹次があたしと雪比奈、クソネコを見る。

ロウソク一本分の部屋は恐ろしいほどに薄暗くて、雪比奈の顔もぼんやりしている。
怖くて怖くて雪比奈の袂を握り締めれば、少し笑われた気がした。
ふいに冷たい手のひらに包まれる。

なんなんだろう、いつからあたしは、こんなにもこいつの傍が安心するようになったんだろう。


「・・・オレがトリを飾ろう」


あたしの手を握ったまま、雪比奈が妖艶に微笑んで言った。
思わず高鳴った胸に気づかないふりをして、目をそらす。

雪比奈は話し始めた。


「・・・百物語をしよう・・・、そう言ってロウソクを用意した男がいた。だが、いざ百話めを話そうとなって気づく。予想以上に、部屋が暗いことに」


ん?とあたりを見渡す。
一本残っていたはずのロウソクが消えていた。鳥肌が立った。とっさに雪比奈の腕にしがみつく。
雪比奈の話は続いた。


「そう、ロウソクが消えていた。まだ百話めを話していない。一体誰が消したのか、不気味に思った男はあたりを見渡した、そこには・・・」
「だあああああああああ雪比奈ストップううううううううう!!」
「痛い・・・そんなに怖いのか、久遠」
「ここここ怖くねーし怖くねーけどなんかその話、今のあたしらみたいじゃん!」
「そこには、百話めを話終えて出てくるはずの本物の幽霊が、残った一本のロウソクを片手に不気味に笑っていた、とさ」
「駄目だもう今日寝れない」


はっはっは、と笑う虹次の声。
真っ暗で分かりにくいけど、ムカついた。

ぱっとついた電機で一気に視界が明るみに出る。
残っていた一本のロウソクは、ロウが全部溶けて火が消えていただけだった。


「・・・そんなしがみついて、怖かった?」
「・・・うるさいな」


イタズラっぽく笑う雪比奈の手は放さないまま、今夜のイベントは終了した。

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