「夏は暑いな。ということで、少しでも冷えるように肝試しをしようということになったのだ!久遠もいかないか?」
「それって冷えるの肝だけじゃないの?」


満面の笑みで腕を掴まれれば断りようはないのだけれど、肝試しだなんて恐ろしい響きに私は少しの抵抗をしてみる。おばけ怖いよ。
すると桜は拗ねたように唇を尖らすから(そんな顔でさえも可愛いんだけどクソゥ)、私は思わずいいよと言いそうになった。
元からきっと断れないのは目に見えていたんだけど。


「久遠行かへんならオレも行かんし」
「え」
「久遠おらんかったらおもろないやん。オレ久遠とお留守番しとくし」
「ややや、ちょっと」


遊騎を見て哀しそうに顔を歪める桜。
遊騎くん、行かないのか・・・って、あああそんな悲しい顔しないでください罪悪感半端ないから!


「行く!行くから遊騎も行くでしょ?」
「久遠行くなら行くし!」
「やったのだー!肝試し!大神ー!」


皆で行くことになったぞ!と嬉しそうに零に報告する桜。
零が哀れみを含んだ目で私を見た。おばけ嫌いだって知ってるなら助けて欲しかったんだけどな。


***


「・・・会長、ここは」
「いかにも!墓地だよ久遠くん」


回れ右して元来た道を早足で帰ろうとすると、泪に無遠慮に襟首を掴まれて無駄に終わる。
ついでに首が絞まって苦しかった。


「許して!泪!私マジで無理!」
「来たからには最後まで楽しまねぇと、だろ?」
「そうそう。それに怖がる久遠可愛いしネ」
「寧々音、久遠がいないとつまんないのー」
「それは何故ですか?寧々音」
「だって怖がる久遠は見ものなの」
「久遠面白がられとーやん」


暗闇の中、草木がこすれあう音がやけに大きく聞こえる。
さあ、私の光を頼りに進みましょう!無駄に大きな声で光を出した平家にビビる私。
そんな私を見た零が、鼻で笑った。ムカついたから一発殴ろうとしたけどすんなりかわされる。

途中、くるりと振り返った平家が自分の顔に光を当てて「うーらーめーしーやー」と驚かしてきた。怖さのあまり思わず顔面を殴ってしまった。


「相変わらず馬鹿力ですね」
「平家くん、いかにも今のは自業自得だよ」
「そっそそそうだよ馬鹿平家、」
「怖さのあまり震える久遠が可愛かったもので、つい」


君のその、ほんの出来心で私は心臓が止まりかけたよ。
そう言えば、刻が声を出して笑った。


「きっとおばけが出ても、久遠がさっきみたいな馬鹿力で倒してくれるのだ!」
「・・・桜小路さん、おばけに物理的な攻撃は通用しないと思いますよ」
「あ、今なんか物音せぇへんかった?」
「ややややめてよ遊騎」
「ややややめろよ遊騎」
「いたっ!?ちょ、王子腕!腕痛ぇんだケド!?」
「・・・ほう?顔が青いですが大丈夫ですか?八王子泪?」
「大丈夫なのー?」


わいわいがやがや。
騒がしく、みんなで進んでいく。

こんな世の中、複雑な事柄ばかりだけど。
こうやってみんなで過ごせるひと時は、とても愛おしく感じたりする。


「ン?・・・なんか白いのが見えたんだケド・・・!」
「・・・っぎゃあああああああああ!」


ただ、今後肝試しという選択肢はやめていただきたい。
痛感したある夏の日の夜。

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