綺麗だね。
そう言ってお前は微笑んだ。
あと何回一緒に見に来る事ができるのだろう。
そう思いながら、オレも微笑み返す。
絡まった指から、少し強い力が伝わってきた。
綺麗だ。そして儚いこの美しさに、彼女もまた不安を感じるのだろうか。
そうだったらいいと、柄にもなく思う。
意味もなく名前を呼べば、蛍から目を離してオレを見上げる久遠。
それが無性にいとおしくて、彼女の肩口に頭を預ければ、クスリと笑う気配がした。
手は、つながれたまま。
さらり。
髪の毛を撫でられて、その手はそのままオレの背中に回る。
オレもつながれていないほうの手を久遠の背中に回して引き寄せる。
彼女ごしに見える蛍が、音もなく光っていた。
この蛍も一週間としないうちに、死んでしまうのだろう。
「イタチ」
ゆるゆると顔を上げれば、優しく笑う久遠。
なにかがこみ上げてきて、それを押し戻すように半ば無理矢理口付けた。
唇を離す。
「・・・すまない」
自分でも驚くほど、弱々しい声が出た。
久遠は少し目を丸くして、そして少し怒ったように眉根を寄せた。
「なんで謝るの」
好きだよ、ずっと。
少し強い風が吹いた。
さらわれまいと、オレは手を握る力を強める。
月が煌々(こうこう)と輝いている。
蛍が儚く、けれど生きようと強く光っている。
「また一緒に見に来ようね」
答えられなかった。
代わりに小さく口付けた。