がさっ、と草木がこすれる音がした。
きゃあんと何とも大袈裟な悲鳴をこぼしながら、久遠がイタチの腕に抱きつく。
イタチは複雑そうな表情で久遠を見た。
まったく怖くなさそうなのだが。
「こわいね」
「こわがってるように見えないが」
「そそそそんなことないよどさくさにまぎれて抱きつこうなんてそんなやましいこと」
「思ってるんだな・・・まぁいいが」
肝試しをやりたいと言い出したのは、意外にも長門だった。
今世を満喫しているなとメンバーは感慨深くなったのだが。別段断る理由もない。
その話に乗ったのだ。
ちなみに、ちゃんと先生の許可は取ってある。
「久遠はこういうのは平気なのか?」
「あたしがもっとも恐れていることはイタチやみんなと一緒にいられなくなることだからねー。逆にこういうのは楽しめる!いろんなことできるし!」
「・・・そうか」
イタチは絶対最後のが一番の本音だなと思った。いやそれしかない。
アミダくじで久遠とのペアを勝ち取ったイタチは少し機嫌が良かった。
今ならなんでも許せる気がする。もともと気は長いほうだが。
それにしても、とイタチは後方を振り返った。
男同士でペアになった奴らが哀れでならなかった。
もともと女は久遠と小南しかいないため必然的に男同士でペアになるのは避けて通れない道だが。
面白くなさそうな顔で、それでも肝試しを実行する連中のことを思い浮かべて、イタチは若干の優越感を感じた。ドヤァ。
「ところでイタチさん・・・こんな暗い中、あんなことやこんなことしても見えないよ?」
「そうだな。画的にとてもふくざつな光景だろうな」
襲う襲わないの問題を言っているとは思うが、なにしろ自分達はまだ五歳なのである。
そんな年かさの幼い子どもが夜闇にまぎれてあんなことやこんなこと・・・喜ぶのはきっとそういう類の物事が大好物なオタクに限るのではないだろうか。
少なくともイタチは、そういう目で見られるのは避けたかった。
つらつらと考え事をしながら歩いていたから、いつの間にか自分達に追いついていた奴らに気づくのが遅れてしまった。
「だめだ、そんなことぜっったいにだめだ。オレはゆるさないぞ久遠」
「ぐへ、長、門、首、首が飛ぶ、」
「お前は久遠の父親か長門」
長門とオビト。
若干険しい目つきで久遠の肩を揺さぶる様は、オビトが言ったとおり父親のそれだった。
「いつの間に追いついたんだ」
せっかく久遠と二人で楽しんでいたというのに、という言葉は飲み込んでオビトに問いかける。だがオビトにはイタチの言葉の深意もくみ取ったようで、ニヤリと嫌味たらしい顔をした。
追いついたのは、絶対にわざとだな。
「言っておくが追いついているのはオレと長門だけじゃないぞ」
「・・・」
まさかと思ってそこらへんで拾った石ころを無造作に投げる。
四方八方に飛んでいった石ころを避けるようにして何人かの影が動いた。
・・・全員、ついてきていたとは。
「あれ。みんないる!」
「・・・はぁ、」
反省などひとつもしてない顔で出てきたサソリに、若干罰が悪そうな顔をしているデイダラと鬼鮫。
飛段は面白くなさそうな顔で鼻くそをほじり、角都に汚いと殴られていた。
小南は微笑ましそうに笑っている。
あみだくじの意味のなさを痛感した。
サソリが眉根にしわを寄せながら、
「ヤロウどもだけで肝試しなんざおもしろくもなんともねぇ」
「それは遠まわしにあたしといっしょにいたいって意味ですぶふう!いたいです!」
「調子にのってんじゃねーよクソが」
サソリのチョップが久遠の頭に直撃した。
痛がる久遠の頭を撫でてやる長門の過保護っぷりにも、もう慣れてきている。
「つーかさっさと帰って寝てぇんだけど」
「飛段はいつも九時には寝ているからな。ガキめ」
「いや角都、いまはお前も十分ガキだから、うん。じーさんだったころは忘れろ」
「そうですね、今日はもうお開きにしましょう」
「だまれ鮫しゃべんな空気がけがれる」
「久遠口がわるいぞ。ののしるならキレイな言葉をつかえ」
「長門、それ鬼鮫のフォローになってないわよ」
「・・・フォローなんてしていないだろうからな」
「鬼鮫の理不尽さだろ」
早く帰ろう、と足を勧める一同。
久遠はゼツが待ってるよーと駆け出した。
もとからあまり怖くなかったが、メンバーで帰る帰り道は怖いとかそんなことを考えるまでもなかった。