玄関のチャイムが鳴った。
きっとアイツだろうから、あまり慌てる事なく財布とケータイだけが入っている小さなリュックを持って玄関に向かう。
サンダルを履いて玄関の扉を開けると、若干不機嫌な顔をしたリヴァイがいた。
「おせーぞチビ」
「いやあんたに言われたくないから」
慌ててるような音も聞こえねぇしお前オレだからってゆっくり靴とか履いてたんだろ。
息継ぎをせずに言い切ったリヴァイに素直に感心する。
長い付き合いだから、ある程度の事はお互いにわかってしまうんだろう。
それはそれでなんだか嫌だなと思いながらリヴァイが引く自転車の後ろに跨がる。
おしりが痛くならないように、リヴァイの自転車の後ろには小さな座布団が引いてあった。
配慮が細かいところも、変わってないな。
「休日にいきなり呼び出しやがって。てめぇはどこに行きてーんだ」
「海、行きたいなぁって思って」
「海?あんなとこ人が多いだけだろうが。それにオレは水着なんざ持って来てねぇ」
「足つけるだけでもいいじゃん。なんならあたしの水着貸そうか?」
「お前はオレに警察署に入れと」
「冗談でぶふっ・・・!リヴァイがビキニ・・・っ」
「勝手に想像して笑うんじゃねぇ」
人類最強と呼ばれていたリヴァイがビキニ姿で海を泳ぐ・・・笑えるけど笑えない妄想だった。
「曲がるぞ」
「ん」
海が見えてきた。
夕方も近くなった時間帯で、太陽の位置は少しだけ低い。
だけど、さすが夏なだけあって海に遊びに来ている人は少なくなかった。
むしろ昼より多いんじゃないのこれ。
少しでも涼しい時間を選ぶ、考えることはみんな同じだった。
「クソみてぇな人の多さだな」
「クソとか言わない。混ざればあたし達だって同じでしょ」
自転車を停め、きちんと鍵をかけた上にチェーンまでかけるリヴァイの腕を引く。
自分で歩くと言いながらも手を振り払わないのは、リヴァイの甘さだ。
そのまま指を絡ませれば、暑ぃなと呟いただけで握り返してくれた。
「ひょー。気持ちいー」
「色気のねぇ声だなお前。・・・変わらねぇ」
「うるっさいな。リヴァイだって変わってないじゃん潔癖症なとことか」
「ズボラよりマシだろ」
傍で泳いでいた子ども達が楽しそうに笑っている。
壁のない、本当の平和。
形は違えど自由を手に入れた今。
今度こそ、あたしはこの手を離すことはしない。
握っている手に力をこめれば、倍の力で握り返してきた。痛い。
「もう離さねぇ」
「リヴァイに似合わないよそのセリフ」
「黙れクソ女」
ぐいっと引き寄せられて、噛み付くようにして唇を食べられる。
痛いなぁと笑えば、リヴァイはふんと鼻を鳴らした。
近くで遊んでいた子どもが、かっぷるだー、と舌足らずな言葉で言った。