甘やかしてほしい。
久遠はそう言って頬を膨らませた。
甘やかす?
普段から別段厳しくしているつもりもないオレは、久遠の言葉に眉を寄せて首を傾げた。
それ以上なにも言わない彼女に、考えあぐねた結果財布から札を出してみる。かなり惜しいが、こいつの機嫌を損ねたら後々厄介だから少しくらい目を瞑ろう。
「ほら、」
札を出すと、久遠は目を丸くして一瞬呆け、それから怒ったようにさらに頬を膨らました。もう、わけがわからない。
「違う!」
「・・・なにをそんなに怒っているんだ・・・」
ハァとため息をつけば、久遠は不満そうに唇を尖らせた。
そんな姿も愛しいと感じてしまうオレも、相当こいつに惚れ込んでいる。
無意識に頭を撫でれば、さっきまで怒っていた久遠は目を輝かせて笑った。
「そ、そうやってね、恋人みたいなことがしたかったの!」
これじゃ恋人というより、兄妹ではないかという言葉は飲み込んだ。
そうか、甘やかせとは、スキンシップのことか。
札を財布にしまう。
オレは久遠を抱え上げ膝の上に乗せた。また、嬉しそうに笑う久遠。
「こんなのでいいのか」
「え、違うよ、これがいいんだよ」
「、そうか」
「角都すきー!」
「ああ。オレもだ」
金銭一切払わない、無償の愛。
たまらなく愛しくてマスクをずらして口付ければ、久遠は少し赤くなって抱きついてきた。
財布が懐から落ちたが、気にならなかった。